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Sugar Box
第5章  黄色い水仙を抱き締めて  * 前 *
 


「ただいま~・・・・・・って、全然実感湧かないなぁ。」


「ふふ、お帰りなさい。黒峰さん。
(大丈夫・・・きっと、上手く出来る。)」


「部屋ってどっち?」


「こっちです。僕の部屋は、リビングを挟んで反対側です。」


 彼が2LDKのアパートの中をキョロキョロ見ている。本当に〝記憶喪失〟なのだと理解した。2人で作り上げた空間も今では、無意味だ。


「なんか、他人の部屋みたいだな。」


「でも、あなたの部屋なんですよ。そうだ。お腹は、空いてませんか?」


「いや、大丈夫。ちょっと、部屋の中の物見てるよ・・・」


「判りました。僕も部屋でレポートを書いてますから、なにかあったら呼んで下さい。」


「判った。」


 彼は、部屋に入ってしまった。その行動にすごく救われた。
 彼と同じ空間には、居られない。黙っていても伝わる愛情が感じられない・・・人とは、苦しい。


  
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