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第1章 初体験は小学五年生

「本当にお母さんの子供の頃にそっくりだね」
「そうなんですか？」
「うん。ねえ愛里ちゃん、再婚とはいえ一応親子なんだから敬語は使わなくていいからね」
「あ、はい…じゃないや、うん」

　幼い頃に両親が離婚している愛里にとって父親との暮らしはほとんど記憶にない。わずかに残った写真を見ては「こんなこともあったかな」と思い出すくらいだ。

　幸彦はそんな愛里を優しく受け止めてくれた。愛里の緊張も徐々に解れ、再婚後すぐに幸彦にも慣れた。

　幸彦と愛里の母親の綾香は幼馴染で古くからの友人だった。独身だった幸彦は愛里の家の窮状を知って母親と結婚してくれた。

　実は幸彦はずっと綾香に惚れていた。しかし彼女は他の男性と結婚してしまい、そのまま二人は古くからの友人としてずっと付き合っていくかと思われた。

　しかし愛里の母親は離婚をした後、病気がちで家計が苦しくなっている。

　それを知った幸彦はすかさず結婚を申し込んだ。

　すでに三十代も後半になり病気と貧乏から自身の幸せを諦めていた綾香は驚きつつもそれを受けた。

　幸彦は小さいながらも会社を経営している。生活に困ることはないだろう。
　自分の病気がちの体のこと、そして愛里の将来のことを考えてもこの再婚はまさに力強い助け舟だった。

　
　再婚後、気が緩んだのか綾香は入院してしまった。愛里は幸彦が三人で住めるようにと新しく契約したマンションの部屋で一時的に幸彦と二人暮らしになった。

　愛里には父親との暮らしがよく分からない。友人達も気を使ってか愛里のいるところで父親の話題が出たことはなかった。

　それでも恥ずかしくて呼べなかった「お父さん」の呼び方も最初の一回をクリアしてしまえばあとはすんなりと呼べるようになった。

　正しくは「お義父さん」なのだが愛里は本当の父親のように幸彦を慕うことが出来、義理の父ではあるものの「お父さん」という存在にすぐに馴染むことが出来た。