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姦譎の華
第14章 14
「いったっ……ったく、ブスで乞食なくせにドロボーまでするんだな、お前は!」

 額に紙片が叩きつけられる。

 うかつだった。部屋に戻った時、不慮の潤いに散漫となったせいで、失敬した一万円の行方にまで気が回っていなかった。あれだけぎっしりと詰まっていたのに、一枚なくなっていることを、母は目敏く見つけたのだ。

「いいじゃんっ! ぜんぜん、家にお金入れないくせに……、本当はそれ、私のもんなんだ!」
「そんなわけあるかっ。これはね、私が頑張って稼いだお金なの。お前なんかのために使うもんじゃないっ!」
「なんでだよっ、他の家じゃ──」
「口ごたえすんなっ。ああ……もうやだやだ、このブスはほんっとにもう……何なのこれ。なんで私がこんな目に遭うの……」
「だったら!」

 見上げる母が、ゆらゆらと歪んだ。なんで私が。それはこっちのセリフだ。

「そんなにイヤなら捨てればいいじゃん! ……あんたのほうがずっとブスなくせに!!」

 牡の杭を突っ込まれていた場所にのしかかられ、横隔膜が不規則に蠢いた。

 ここまでされては、言わずにはいられなかった。しかしすぐに、しまったと思った。まだ手は不自由だ。娘に禁句でもって口ごたえされた母は、激発を新たに、また髪をつかんで揺らすか、とうとう拳を顔に打ちつけてくるのかと、しゃくりをこらえながら、次なる暴力に備えていた。

 だが雫がこめかみに落ちて視界が晴れると、母は髪を巻き込み、頭をかかえて小刻みに震えていた。

「そんな……、だって……うう……、お前には、わかんないわよ……」
 緩慢にベッドを降り、「勝手なことばかり言って……、うう……、なんで……みんなもう……なんで……」

 そのまま去り行こうとする。

「待ってっ、ほどいてよっ、ねえっ……、ママ!」

 何故この時ばかりは出たのか、久しぶりに口にした呼称だった。

「うるさいブス。乞食で……ドロボーで……、ほんとスケベなブスのくせに。胸やケツばっかデカくなりやがって、この、覗き魔が……」

 しかし母の方は昔の呼び名を使ってはくれず、呻きながら出て行ってしまった。

「ぐっ……!!」

 追いかけてぶっとばす。一万円も取り返す。
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