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姦譎の華
第2章 2
その証拠に、
「たかがホストで人生狂わせた上に周りにまで迷惑をかけるなんて、ほんと、ブスが調子に乗ると始末が悪いですよね」
そう付け加えた。
愛紗実もまた秘書であるから、容姿については優等である。
何と言ってもまだ若い。今の自分にとって最大の武器だと、よくわかっているのだろう、時には──もちろん致命的ではない場面においてのみ、しかも相手は愛紗実にとって有益となる人物に対してばかりだが、若年ゆえの未熟さとやらを晒し、手助けする者の自尊心を刺激する「隙」を作るのが非常に上手かった。メイクにしてもスタイルにしてもフェミニンさを押し出すのを忘れず、仕事をする相手は自ずと高齢な男性であることが多いから、愛紗実の可愛げは、彼女が職務を進めるにあたって欠かせないものになっている。
なのに愛紗実は、多英の前だけでは、あざとさを隠そうとしないのだった。
特別仲がいいわけではない。だから愛紗実が自分に心を開き、信頼を寄せるあまりに、本音が口を衝いているわけではない。
むしろ、逆だろう。
「……もうやめましょう、この話」
事件について愛紗実が憤然としているのは、迷惑を被らされた横領犯を許せないからではなく、並んで立つ同僚の受け答えが、まるで素っ気ないのが気に食わないからだ。
光瑠によれば、愛紗実は新卒入社の最初から秘書係に配属されたらしい。つまり、その見目の良さを買われて採用されたということになる。本人にも自負があり、あらゆる「長所」を駆使して邁進した結果、やがて社長秘書を務めるようになって、順調にキャリアを重ねていたようだ。
しかし或る日突然、付秘書から外されてしまった。
理由は、他の役員たちにも随伴すべき案件が増えたため──だったのに、しばらくのちに自分が中途で入社してきて、あっさりとその座に収まったのである。しかも愛紗実の時よりも仕事ぶりが評判になり、いずれ近いうちに昇任すると思っていた、主任の役職までもを塞いでしまった。
「たかがホストで人生狂わせた上に周りにまで迷惑をかけるなんて、ほんと、ブスが調子に乗ると始末が悪いですよね」
そう付け加えた。
愛紗実もまた秘書であるから、容姿については優等である。
何と言ってもまだ若い。今の自分にとって最大の武器だと、よくわかっているのだろう、時には──もちろん致命的ではない場面においてのみ、しかも相手は愛紗実にとって有益となる人物に対してばかりだが、若年ゆえの未熟さとやらを晒し、手助けする者の自尊心を刺激する「隙」を作るのが非常に上手かった。メイクにしてもスタイルにしてもフェミニンさを押し出すのを忘れず、仕事をする相手は自ずと高齢な男性であることが多いから、愛紗実の可愛げは、彼女が職務を進めるにあたって欠かせないものになっている。
なのに愛紗実は、多英の前だけでは、あざとさを隠そうとしないのだった。
特別仲がいいわけではない。だから愛紗実が自分に心を開き、信頼を寄せるあまりに、本音が口を衝いているわけではない。
むしろ、逆だろう。
「……もうやめましょう、この話」
事件について愛紗実が憤然としているのは、迷惑を被らされた横領犯を許せないからではなく、並んで立つ同僚の受け答えが、まるで素っ気ないのが気に食わないからだ。
光瑠によれば、愛紗実は新卒入社の最初から秘書係に配属されたらしい。つまり、その見目の良さを買われて採用されたということになる。本人にも自負があり、あらゆる「長所」を駆使して邁進した結果、やがて社長秘書を務めるようになって、順調にキャリアを重ねていたようだ。
しかし或る日突然、付秘書から外されてしまった。
理由は、他の役員たちにも随伴すべき案件が増えたため──だったのに、しばらくのちに自分が中途で入社してきて、あっさりとその座に収まったのである。しかも愛紗実の時よりも仕事ぶりが評判になり、いずれ近いうちに昇任すると思っていた、主任の役職までもを塞いでしまった。