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姦譎の華
第2章 2
奪われた。
愛紗実が社長秘書から退いた後で入ってきたわけだし、就いた職務に励んだだけであるのだから、害意は微塵もなかったのだが、彼女はそうは受け取らなかったようだ。
かの雑誌の取材時も、ライターが取材対象を中心に社長室の面々を収めた写真を撮っておきたいと言い出すと、
「華村さんの隣だと自信なくしちゃうから、私は隅っこのほうでいいでーす」
冗談めかし、取材が来ていることにはしゃいだフリをしながら、向けてきた視線は強い敵意を感じさせた。結局写真は使われることはなかったし、愛紗実が不行儀な態度で写真に収まるとは思えないが、その時の顔つきはいまだに忘れられない。
「それにしても華村さんは慣れてそうですよね。もしかしてデートの時はいつもこういうホテル使ってるんですか?」
常に華村主任ではなく華村さんと呼んでくるところからして、愛紗実は自分の存在を一切認めていないにちがいなかった。ゆえに、二人きりになると彼女が仕掛けてくる話には、まったく油断がならなかった。横領犯への悪言に乗ってこないとわかったのに、まだ執拗に絡んでくる。待機時間を雑談で乗り切ろうというよりも、下世話な話を仕掛け、世間に持て囃されている同僚秘書が、他人を見下したようなコメントをしたり、ただ同調するだけでもいい、品を失するところを見たいのだ。
「そんなわけないでしょう?」
「へぇ……、じゃ、室長とデートするときは、どんなとこ使ってるんですか?」
デートの時に使うホテル、とは、何用を指しているのか誰でもわかる。
光瑠と付き合っていることは社内では暗黙の諒解となっているが、社長室長と社長秘書が、上司と部下が、恋人としてどう過ごしているか知ろうなんて、生々しすぎてまともに答える気にはなれない。
(でもね……)
もしここで愛紗実へ新事実を伝えたなら、驚きか、妬みか、それとも何か別の感情によってか、何でもいいからこの子を黙らせることができるのだろうか──
愛紗実が社長秘書から退いた後で入ってきたわけだし、就いた職務に励んだだけであるのだから、害意は微塵もなかったのだが、彼女はそうは受け取らなかったようだ。
かの雑誌の取材時も、ライターが取材対象を中心に社長室の面々を収めた写真を撮っておきたいと言い出すと、
「華村さんの隣だと自信なくしちゃうから、私は隅っこのほうでいいでーす」
冗談めかし、取材が来ていることにはしゃいだフリをしながら、向けてきた視線は強い敵意を感じさせた。結局写真は使われることはなかったし、愛紗実が不行儀な態度で写真に収まるとは思えないが、その時の顔つきはいまだに忘れられない。
「それにしても華村さんは慣れてそうですよね。もしかしてデートの時はいつもこういうホテル使ってるんですか?」
常に華村主任ではなく華村さんと呼んでくるところからして、愛紗実は自分の存在を一切認めていないにちがいなかった。ゆえに、二人きりになると彼女が仕掛けてくる話には、まったく油断がならなかった。横領犯への悪言に乗ってこないとわかったのに、まだ執拗に絡んでくる。待機時間を雑談で乗り切ろうというよりも、下世話な話を仕掛け、世間に持て囃されている同僚秘書が、他人を見下したようなコメントをしたり、ただ同調するだけでもいい、品を失するところを見たいのだ。
「そんなわけないでしょう?」
「へぇ……、じゃ、室長とデートするときは、どんなとこ使ってるんですか?」
デートの時に使うホテル、とは、何用を指しているのか誰でもわかる。
光瑠と付き合っていることは社内では暗黙の諒解となっているが、社長室長と社長秘書が、上司と部下が、恋人としてどう過ごしているか知ろうなんて、生々しすぎてまともに答える気にはなれない。
(でもね……)
もしここで愛紗実へ新事実を伝えたなら、驚きか、妬みか、それとも何か別の感情によってか、何でもいいからこの子を黙らせることができるのだろうか──