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姦譎の華
第16章 16
「ったく好きだねえ、俺はせいぜい二回くらいだってのによお。たかがオンナなんかにかまけてるからさ、仕事が定時超えちまうんだ。もっと余裕持ちなよ」
「はあ……」
「女ってのはな、構いすぎてもダメなんだ。ガツガツいくよりも、あっちからオネダリさせるくらいじゃねえとな」
「……そう、かもしれませんね」
「ま、女慣れしてねえ稲ちゃんに言ってもしょうがねえか。つっても、ちゃんとガマンしてくれたんだろうな?」
「それはもちろん……」

 答えを聞いた島尾は団子鼻をフンと鳴らし、ドアノブを手に取ったが、

「ならいいけどよ。……言っとくけど、今日は俺が先だからな」
「何がですか?」

 やたらと余裕ぶっていたのに、非常階段に出てドアを閉めたときには一転、不機嫌そうに、

「あの女に突っ込む順番だっ。いいか、昨日みたいに暴走して勝手な真似するんじゃねえぞ。わかったなっ」
「……はい」

 勝手に暴走して、勝手に自爆したのは島尾だ。
 先輩のずんぐりとした後ろ姿を見ていると、ふき出してしまいそうになる。

 どこかのクズとは違い、昨日の自分は、麗しき祠へ過たず一発で身を投じることができた。そのときのあの方は、身はローテーブルの上に静謐と横たえながらも、わずかに呻きの混じった吐息を放っていた。こんな自分の、こんなにも卑賎な肉棒に、避妊なく、許可なく貫かれたのである。女性ならば筆舌尽くしがたい悶苦に苛まれてもおかしくはない。本当ならばのたうち回りたいところを、卓抜した気品が見るも奥ゆかしい物腰に留めさせていたのだ。

 そう、考えていた。

 しかし今日、憧れの足へ繰り返し劣情の化身を擦り付けていると、真相は違ったのではないかと思われてきた。

 もたらされる感触が、オプション料を受け取ったにもかかわらず、ヤル気ゼロというよりマイナスの風俗嬢のものとは雲泥の差なのだ。

 どちらも同じ、足である。何もマネキンにしてもらっているわけではない。どちらも血の通った、生身の肉体だ。
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