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姦譎の華
第17章 17
 多英がフロアに入った時には、似非医者は壁際に据えられたカウチソファでピアスの子を膝の上に乗せていた。痩せぎすの体にたわむタンクトップへ手を入れていたが、多英がカウンターの隅に収まるや、これを放り出して隣の席を陣取った。途中でやめられて不貞腐れ気味のピアスの子もその隣につき、二人の様子を近くで鑑賞していたサラリーマンたち、そして別の場所で寛いでいた若めの二人組も集まって、フロアにいた全員が一角に犇めく状態になっていた。

「これは別に性に対してオープンな女性に限った話じゃないんですよ。私の経験をお話ししますとね……」

 常連どころか店のヌシみたいなものだと自己紹介した似非医者は、べつに訊ねてもいないのに体験談を語り始めた。

 富裕層だが、セックスレスで欲求不満だった主婦と知り合って主従関係を結び、様々な場所で様々な情交に耽った。彼女は最初はセレブとしての羞恥心が邪魔をしていたが、勇気を持って一歩を踏み出したとたん、乱れに乱れ、旦那では得難かった快楽を思う存分に味わうことができた。そのプレイというのは……。

 甚だ信憑性に欠ける話だった。典型的すぎる云々、話の矛盾が云々、そんなこと以前の話だ。

 K省幹部もそうだったが、女に対してやたらに語りたがる男は多い。厚顔にも手を撫でて誘ってきた幹部と、この似非医者とでは、見てくれの点では負けず劣らずだ。

 しかし理非曲直はともあれ、幹部はそれなりの実績を残しているからこそ、幹部なのである。

「要はね、信頼ですよ、信頼。もちろんプレイには医学的な知識も必要だが、いくら奴隷だ、御主人様だ、って言ってもね、信頼してるからこそ痛みも苦しみも快楽に変わるんです。サディストは本来、奉仕者でなければならないんですよ。私に言わせれば世の中のサディストを気取ってる奴らはカンチガイの暴力男ばっかりです。そんなのじゃ女性は真実の快楽には到達できない」
「うんうん、わかるー」
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