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姦譎の華
第17章 17
 何もしていないうちから何かを語られようが、何一つ心に突き刺さるものはなかった。よって、この男の口から聞く限り、感心も感銘も、もちろん、信頼も抱くことはなかった。

 この男は医者ではない。だとしたら何者だろう。
 今の多英にとっては何者でもなかった。

 背後のサラリーマンたち。彼らを区別するものも、何もない。共感の呪いがかかっているピアスの子は? 手を叩いて笑ったときに腕の内側を走る無数の傷痕が見えたが、だからといって、街ですれ違う女の子たちと異なる感慨を見出すことができるかというと、それはない。

「よう、何の話だ」

 囲む男たちの壁の向こうから声が聞こえた。

「あーっ。オジサンたち懲りもせずまた来たんだー。ウケる」

 ピアスの子がまたキャハッと笑い声を上げると、多英がカウンターについてからはことごとく彼女に無反応だった似非医者も口端を曲げた。人垣を押し割るようにして、巨体と矮躯が現れる。

「ガラガラだから何してるのかと思ったらみんなで楽しくご歓談中だったってわけだ。おいビールだ、早くしろ」

 島尾がバーテンダーへ向けて横柄に手を上げると、

「このオジサンたちさー、前にも来たんだけどミクのこと気に入ったみたいで、めっちゃ誘ってきてしっつこかったの。他の人とエッチしてたら勝手に混ざってこようとするしさー、デブのオジサンはホーケーでチ×コすっごいクサいしさー、あっちのちっちゃいオジサンは『パンティ嗅がせて』とかキモいこと言ってくるしさー、もー、ヤッバくてー。店員にチクって追い出してやったんだー」

 面白がって話すピアスの子に、サラリーマンたちも笑いを噛み殺した。けれども島尾は何も言い返さず泡髭を作り、性癖をバラされた稲田もしょげることなくヘラヘラとしている。
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