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姦譎の華
第17章 17
「まあまあ、ここはどんな人でも受け入られるべき場所なんだからね」
侮っていながら寛容ぶった似非医者は、「……そう、どんな性癖お持ちの方でも、ここへやってくる権利はあるんですよ。決定権は誰にでもある。そういうルールなんですから」
思いついたように声のトーンを落とし、スツールをにじってきた。
「ルール?」
「ええ。この店では相手がイエスと言わなければ引き下がらなければならない、そういうルールなんですよ。誘う側が男性でも女性でも同じです。あくまでも、両者合意の上でなければならない。……ですがまあ、貴女のような方から誘われたら断る男なんていないでしょうけどね」
そのとおりかもしれない。
似非医者からもサラリーマンたちからも、こんな上玉を逃してなるものかという、ただならぬ意気込みが感じられる。
しかし島尾と稲田は、違った。
誰でもない人々に囲まれる中、唯一知っている中年男たちは、侮られていながら悠々と、筋書きを知っている舞台でも鑑賞するかのように、会話の行く末を見守っている。
「……こんな私を誘ってくれたり、誘われて嬉しい人なんているんでしょうか」
ひとことの返事や相槌ばかりだった多英が、初めて明瞭に声を聴かせてやると、いきおい似非医者は色めき立った。
「何を言ってるんです! 貴女ほどの人に誘われて嬉しくない男なんているもんですか!」
「そうでしょうか。あまり自分のことは……よくわからなくて」
「ど、どうでしょう、今から、ほ、本当の自分を解放してみませんか?」
ただの謙遜だというのに、とうとう、似非医者は本題へと踏み込み始めた。
「解放?」
「そうです。貴女はそのキリッとした姿から、周囲からサディストだと思われていることでしょう。でも実は、マゾヒストなんですよね? 私にはわかりますよ」
「それはどういったところが?」
「えっ……、いっ、いや、どこがどうというわけじゃない、ビビッと伝わってくるんです。言ったでしょう、私にはわかるって。何人の女性と快楽を共にしてきたと思ってるんです? 素性をお聞きするのはご法度でしょうが、貴女はさぞかし社会的地位が高いお仕事をされているのでしょう。きっと仕事でもプライベートでも、男たちからチヤホヤされて崇め奉られている」
侮っていながら寛容ぶった似非医者は、「……そう、どんな性癖お持ちの方でも、ここへやってくる権利はあるんですよ。決定権は誰にでもある。そういうルールなんですから」
思いついたように声のトーンを落とし、スツールをにじってきた。
「ルール?」
「ええ。この店では相手がイエスと言わなければ引き下がらなければならない、そういうルールなんですよ。誘う側が男性でも女性でも同じです。あくまでも、両者合意の上でなければならない。……ですがまあ、貴女のような方から誘われたら断る男なんていないでしょうけどね」
そのとおりかもしれない。
似非医者からもサラリーマンたちからも、こんな上玉を逃してなるものかという、ただならぬ意気込みが感じられる。
しかし島尾と稲田は、違った。
誰でもない人々に囲まれる中、唯一知っている中年男たちは、侮られていながら悠々と、筋書きを知っている舞台でも鑑賞するかのように、会話の行く末を見守っている。
「……こんな私を誘ってくれたり、誘われて嬉しい人なんているんでしょうか」
ひとことの返事や相槌ばかりだった多英が、初めて明瞭に声を聴かせてやると、いきおい似非医者は色めき立った。
「何を言ってるんです! 貴女ほどの人に誘われて嬉しくない男なんているもんですか!」
「そうでしょうか。あまり自分のことは……よくわからなくて」
「ど、どうでしょう、今から、ほ、本当の自分を解放してみませんか?」
ただの謙遜だというのに、とうとう、似非医者は本題へと踏み込み始めた。
「解放?」
「そうです。貴女はそのキリッとした姿から、周囲からサディストだと思われていることでしょう。でも実は、マゾヒストなんですよね? 私にはわかりますよ」
「それはどういったところが?」
「えっ……、いっ、いや、どこがどうというわけじゃない、ビビッと伝わってくるんです。言ったでしょう、私にはわかるって。何人の女性と快楽を共にしてきたと思ってるんです? 素性をお聞きするのはご法度でしょうが、貴女はさぞかし社会的地位が高いお仕事をされているのでしょう。きっと仕事でもプライベートでも、男たちからチヤホヤされて崇め奉られている」