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姦譎の華
第17章 17
「あの」
 多英はスッと手を引き抜いた。「私、興味ありませんから」

 似非医者はそれでもめげずに手を差し伸ばしてくる。

「いやっ、は、恥ずかしがらなくていい。皆、誰だって、イヤラしいことを、考えるもんなんですっ。さ、手をお取りなさい。大丈夫、私が、快楽の世界へ──」
「いいえ」

 多英はカウンターに手を戻し、乾いてはいるが瞞着のない眼差しを向けた。

「私、あなたには、興味はありません。これでよろしいですか?」
「いや、ですから……」
「しつこく誘うのは、ルール違反ではないんですか?」

 そこでようやく、似非医者は言葉を失ってくれた。
 だとよ、センセ。島尾に嬉しそうに肩を叩かれる。

「やーん、ケンちゃんフられちゃったー。……まぁ、いいじゃん。こんな冷たいヒトほっといてさー、あたしとさっきの続き、しよ? ね、たくさんイジメてくれていいよ。ね、ね?」

 ピアスの子が慰めるが、とても立ち直れそうにない落ち込みようだ。

「へへっ、じゃあよ、是非このお姉様に選んでもらおうじゃねえか。な? こんなオジンじゃなくたって、イキのいいオトコはまだまだいるんだしよぉ」

 勝利の祝杯のようにビールを空けた島尾が、サラリーマンたちを見回した。入店時にはあれだけ侮っていたのに、彼らは島尾を支持して次々と頷いていく。

 汚れた期待に満ちたいくつもの視線が、一斉に向けられていた。

 一様に、悍ましい。

 しかしその中にあって、四つの目から放たれたものだけは、邪欲の類いがまるで異なっていた。

「よせ……この人は他人のセックスを見学しに来ただけなんだ。考えてもみろ、これほどの人なら、こんなとこに来なくても──」
「……それでは」

 似非医者はは項垂れたまま呻いたが、多英が口を開くや、ハッと面を上げた。

「あ、あなたに……」
「タクヤだ」

 島尾が胸の名札を引っ張ってみせる。

「はい、タクヤ……、さんに」
「……と?」

 稲田がずいと視界に体を入れてくる。
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