この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
姦譎の華
第17章 17
「あの」
多英はスッと手を引き抜いた。「私、興味ありませんから」
似非医者はそれでもめげずに手を差し伸ばしてくる。
「いやっ、は、恥ずかしがらなくていい。皆、誰だって、イヤラしいことを、考えるもんなんですっ。さ、手をお取りなさい。大丈夫、私が、快楽の世界へ──」
「いいえ」
多英はカウンターに手を戻し、乾いてはいるが瞞着のない眼差しを向けた。
「私、あなたには、興味はありません。これでよろしいですか?」
「いや、ですから……」
「しつこく誘うのは、ルール違反ではないんですか?」
そこでようやく、似非医者は言葉を失ってくれた。
だとよ、センセ。島尾に嬉しそうに肩を叩かれる。
「やーん、ケンちゃんフられちゃったー。……まぁ、いいじゃん。こんな冷たいヒトほっといてさー、あたしとさっきの続き、しよ? ね、たくさんイジメてくれていいよ。ね、ね?」
ピアスの子が慰めるが、とても立ち直れそうにない落ち込みようだ。
「へへっ、じゃあよ、是非このお姉様に選んでもらおうじゃねえか。な? こんなオジンじゃなくたって、イキのいいオトコはまだまだいるんだしよぉ」
勝利の祝杯のようにビールを空けた島尾が、サラリーマンたちを見回した。入店時にはあれだけ侮っていたのに、彼らは島尾を支持して次々と頷いていく。
汚れた期待に満ちたいくつもの視線が、一斉に向けられていた。
一様に、悍ましい。
しかしその中にあって、四つの目から放たれたものだけは、邪欲の類いがまるで異なっていた。
「よせ……この人は他人のセックスを見学しに来ただけなんだ。考えてもみろ、これほどの人なら、こんなとこに来なくても──」
「……それでは」
似非医者はは項垂れたまま呻いたが、多英が口を開くや、ハッと面を上げた。
「あ、あなたに……」
「タクヤだ」
島尾が胸の名札を引っ張ってみせる。
「はい、タクヤ……、さんに」
「……と?」
稲田がずいと視界に体を入れてくる。
多英はスッと手を引き抜いた。「私、興味ありませんから」
似非医者はそれでもめげずに手を差し伸ばしてくる。
「いやっ、は、恥ずかしがらなくていい。皆、誰だって、イヤラしいことを、考えるもんなんですっ。さ、手をお取りなさい。大丈夫、私が、快楽の世界へ──」
「いいえ」
多英はカウンターに手を戻し、乾いてはいるが瞞着のない眼差しを向けた。
「私、あなたには、興味はありません。これでよろしいですか?」
「いや、ですから……」
「しつこく誘うのは、ルール違反ではないんですか?」
そこでようやく、似非医者は言葉を失ってくれた。
だとよ、センセ。島尾に嬉しそうに肩を叩かれる。
「やーん、ケンちゃんフられちゃったー。……まぁ、いいじゃん。こんな冷たいヒトほっといてさー、あたしとさっきの続き、しよ? ね、たくさんイジメてくれていいよ。ね、ね?」
ピアスの子が慰めるが、とても立ち直れそうにない落ち込みようだ。
「へへっ、じゃあよ、是非このお姉様に選んでもらおうじゃねえか。な? こんなオジンじゃなくたって、イキのいいオトコはまだまだいるんだしよぉ」
勝利の祝杯のようにビールを空けた島尾が、サラリーマンたちを見回した。入店時にはあれだけ侮っていたのに、彼らは島尾を支持して次々と頷いていく。
汚れた期待に満ちたいくつもの視線が、一斉に向けられていた。
一様に、悍ましい。
しかしその中にあって、四つの目から放たれたものだけは、邪欲の類いがまるで異なっていた。
「よせ……この人は他人のセックスを見学しに来ただけなんだ。考えてもみろ、これほどの人なら、こんなとこに来なくても──」
「……それでは」
似非医者はは項垂れたまま呻いたが、多英が口を開くや、ハッと面を上げた。
「あ、あなたに……」
「タクヤだ」
島尾が胸の名札を引っ張ってみせる。
「はい、タクヤ……、さんに」
「……と?」
稲田がずいと視界に体を入れてくる。