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姦譎の華
第18章 18
 悔しげな声とは裏腹に、太ももは角度をつけていった。上側に手を添えて二本指で開扉してやると、下腹がブルッと震える。剥き出しになった泉園に見惚れつつも、稲田はまだペットボトルを多英の顔の前に掲げたままだった。

「は、はやくっ……」
「早く、何ですか?」

 長い睫毛が上がり、黒目がこちらを向いてくる。仄暗くとも吸い込まれそうな瞳には自分が映っていた。曲鏡面だからでなく、無礼に、醜く歪んでいる。

「……それ、当てて……」

 淑女に請われて、更に崩れたことだろう。

 だが稲田は、自分の顔つきを確認することはできなかった。柔肉へ押し込むようにして飲み口をあてがい、透明の容器の内側を注視する。ラベルを剥がしたほうがよかったな、と後悔したとき、指先に震動を感じた。斜めになった底に、わずかに泡立つ液体が揺れている。

「あー、出ますね。いっぱい出してくださいね。もちろん、こいつも持ち帰らせてもらいますよ。冷蔵庫に保管して、ときどき開けて少しずつ──」
「ああっ……!」

 最後の一押しをしたのは、悪寒だったのだろう。

 ペットボトルの側面にさっきより強い衝撃があり、跳ね返った奔流がみるみると水嵩を上げていった。

「おおっ、すごいすごい、たくさん出てますよっ。人前でオシッコするなんて何て恥知らずなっ……!」

 両腕を吊られて顔を隠すこともできない聖女の恥態を目の当たりにし、稲田の脳内で、火花のようなものが弾けた。

 ……中学の時だ。

 トイレに行こうとしたら、煙草を吸っていた上級生たちと出遇してしまった。男子トイレだというのに、何人かの同級生の女子もいた。

 殴られ、蹴られ、濡れたタイルにうずくまると、裏返され、大の字にされ、殴られ、蹴られた。下裸にされ、手首足首を上級生に踏まれて動けない体を、女子たちもが笑いあって踏みつけてきた。

 こいつ、パンツ見てるぞ。
 見えない方がおかしい。

 ちょ、勃ってんじゃん、キモい。
 嗜好をおかしくされたのはこの時かもしれない。
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