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第3章 ３

「……なんかこのあたりって」
「ん？」
「ああいうのばっかり」

　久しぶりに口を開いたが、指さしたわけではなかったので具体的にどれのことを言ったのかは不明瞭だった。しかし目に入るどれもが、窓が少なく原色の光を帯びた建物ばかりだったから、言わんとしたことが察せられないはずはなかった。

　にもかかわらず、光瑠は何軒過ぎてもハンドルを切ろうとはしなかった。結局多英から「ちょっとあれに入ってみない？」と誘いかけてやっと、車は駐車場への垂れ幕をくぐってくれたのだった。

　部屋に入ってから、わけが判明した。

　光瑠はラブホテルへ来たことがなかったのだ。そういえば車を降りて部屋に入るまでのエスコートも彼にしてはたとたどしく、それを恥じ、言い訳をしたいのだろうか、それとも恋人に対して正直でありたいのだろうか、おずおずと自白してきた。

　こんな瑣末なことにも沽券を関わらせようとするなんて、男は大変だなと思うと同時に、歳の離れた恋人に和まされた。社長である父親の威光があるにしても、三十に満たない歳で社長室長を務め、七光りの誹りを跳ね返そうと努力し、評価に値する実績を残している光瑠は、同年代の男よりずっと老成していると思う。しかし恋人として向き合うときどき、こうして変なところで子供っぽさを覗かせる。

　初ラブホを告白して気が楽になったのか、広いベッドはともかく、充実したアメニティといい、テレビのそばのカラオケマイクやゲーム機といい、光瑠は通常のホテルとは調度が異なる室内を見回して、

「なんか……、すごいね」

　物珍しげに感心をした。
　笑いをこらえ、

「そうね。ここまでしなくてもいいんじゃないかって思うよね」
「やっぱり、この辺りは競争が激しいのかな」
「差別化？」
「そう」

　結局、どんなホテルにもあるものばかりである。差別化が高じたあまり、過当競争へと陥っているようだ。