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姦譎の華
第3章 3
 車以外で来ることは不可能と思われる立地は、ドライブ中のカップルを主なターゲット顧客としているのだろう。どんなビジネスであっても必ずチャンスロスはあるのだから、それなりの期待顧客──セックスがしたい人々がいなければ、いかなる戦略も奏功しない。

 そんなにも世の中のカップルは、ドライブ中に衝動的にしたくなるものかしら?

 わかっていたことだが、詮無い分析をいくらやっても自分の仲間がいるかどうか明らかにはできそうになかった。思索はそこそこに、バスルームへと向かい湯を溜め始める。湯舟は二人で浸かって睦みあうには充分で、そのまま事を始めてしまうことも可能な大きさだ。

 これからの期待で体に熱がこもり始めるのを感じながら戻ると、二人でゆるりと寛いで待てそうなソファセットがあるのに、光瑠はまださっきの場所にとどまったままだった。

「多英さんは来たことがあるんだよね」

 出し抜けに、そう問うてくる。

 うかつにも手際よく風呂の準備をしてしまった後悔で、即座に返事ができなかった。けれども間を空ければ空けるほど、いたたまれなさが増すだろうとも危ぶまれたから、

「それは……、だって。わかるでしょう?」

 しかし何を言っても、光瑠の悋気を解消できそうになかった。らしくなく、埋めるべき言葉をうまく継げずにいると、いつもは女性優位に、丁寧に扱ってくれる彼が、腰と頭の後ろをつかみ寄せ、有無を言わせぬ勢いで唇を塞いできた。

 光瑠とて、本気で責めているわけではない。わかっている。これだけ歳が離れていれば、出会う前、付き合う前、別の男といかがわしいホテルへ入ったことも、そしてベッドか、風呂かで、なにがしかをはたらいたことも、何一つ糾弾する権利はないことは、彼の中でも自明のはずだ。

 だが、理知が導く答えを、情念が受け入れようとはしないらしかった。
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