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姦譎の華
第3章 3
 前歯の間から舌を差し込み、溢れる唾液を啜ってくる。軽く擦れるデニムの中では、硬くなった幹が唇をはむに合わせて弾んでいる。ベッドへと押し倒され、腰から下をタイトに包むマーメイドスカートが、年下で、可愛らしく、穏やかな彼であっても、そこはやはり男なのだと言い張る力で引き剥がされていく。

 衣服を毟られつつ、体じゅうがまさぐられた。かつて別の男がこの肌身を恣にしたという向けどころのない妬心と、しかし今日からは名実ともに俺のものになったのだという会心がないまぜとなり、光瑠の両手を強く唆かすようだった。

「──ごめん」

 だから精気が落ち着いてくると、欲望の向くまま恋人の体を貪ってしまい、はやばやと、かつ一方的に畢竟を迎えた事実が省みられて、光瑠はひどく落ち込んでいた。

「……。すごかったね」

 年下の恋人の心のうつろいが手に取るようにわかったから、多英は慰めも励ましもなく、ただ感想を述べた。決して、優しい嘘ではなかった。

「すごい?」
「うん。光瑠くんがこんなふうにするなんて想像できなかったから」
「そうかな?」
「そうでしょ。いつもは甘えん坊さんだもん」
「なんだよ、それ。ひどいなあ」

 自覚があるのだろう、ようやく神妙だった顔を崩してくれた。

 光瑠は早くに母を亡くしており、年の離れた恋人に憧憬を重ねてしまったとしても、致し方のないところだった。というより、重ねたいから付き合いたいと考えたのかもしれない。マザコンかどうかを判定するなら、まさしくクロなのだろうが、決して縮め得ない年の差を、やたら背伸びをし、始終肩肘を張って克服しようとされるより、多英としても気が楽だった。

「近いうちにお母さんに報告に行きましょう」
「そうだね。そういえばしばらく墓参りしてないな」
「大事なお母さんだもんね」

 それだけに、今日の荒々しさは新鮮だった。何もかも強引に進められ、果たして如実に潤った。もちろん光瑠なればこそなのだろうが、初めて、純粋に女として彼に抱かれた気がする。結婚の約束をした日に。それだけでも、ラブホテルに入った甲斐はあったというものだ。
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