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姦譎の華
第20章 20
20


 大きな書店に来たからといって、いい本が買えるとは限らない。これが普通の小説とかならば、なんだ面白くなかった、とガッカリするだけなのだが、選びたいものが学習参考書なら話は別である。是非の結果が出るまでに時間がかかったあげく、結局学力向上には役立ちませんでした、ではたまったものではない。

 ということで後悔のないように、なるべく品揃えの良い店にやってきたのだが、あまりにも数が多すぎて、かえって選び難くなってしまった。

 だいたい、値段の差が激しすぎる。いったい参考書の価格とは、何によって決まっているのだろう。そもそもの目的に沿うのなら、高いものを買えばそれだけ成績が上がり、安いものを買えば、それほど。それなら納得もできるのだが。生徒の素養と理解力にはそれぞれ差がありますから。きっとそんな言い訳が用意されているにちがいない。

 生徒それぞれ。人それぞれ。

 東京というところは狭いくせに人が多すぎ、まさに書店へ向かう途中のスクランブル交差点なんて、本当にひどいものだった。

 よそとは違うかもしれないが、些細な違いだ──

 小学生のころ必死になって思い込もうとした差違は、大都会にあっては本当に些細なものになっていた。これだけ人がいると各々が抱える幸不幸も実に様々で、中学生ともなれば、いちいち構ってはいられない。

 結果的に、第二次性徴を迎えてますます同年代との差が自認されてならない体だけが、周囲と自分とを区別する目印となっていた。

 入学初日、担任の話を聞きながら、誰もがこちらへ気を取られていた。休み時間、同じ小学校だった子が話しかけてきたのを契機に席を囲まれ、翌日には噂を聞いた別のクラスの子たちも真偽のほどを確認しにきた。廊下から観察されて動物園の珍獣にでもなった気分だったが、すぐに慣れることができた。怯むべき負い目は何もない。体つきは同級生の一歩も二歩も先を進んでいるし、ほとんどの場合、相手を見下ろすことになる。

 平等という言葉が孕んでいる矛盾を、実感し始める年頃だった。何があろうと上回ることはできないものの存在を真に認めた子から、「オトナ」へとなっていく──

(もうどれでもいいや)
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