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姦譎の華
第20章 20
「それにしてもびっくりした。写真でも可愛かったけど、実際会ってみたらすっごくスラーッとしてるね。大人っぽいし、とても学生には見えないな。ここだけの話さ、多英ちゃんほどスタイルいい子ってのはなかなかいないんだ。これはとんだ逸材を発掘したかもしれない、って思ってる。大手が声をかける前でほんとよかったよ」

 そんなことを言ってきた。

「……そうかな」
「ん? 自分でそう思わない?」
「ぜんぜんだと思う。……ブスだし」

 思わず口にしてしまうと、男は外国人のように両腕を広げた。

「ちょっとちょっと、謙遜だとしても、多英ちゃんみたいな子がそんなこと言ったら世の中の女の子たちにタタかれちゃうよ?」
「だってよく言われるもん」
「そんなことない。とても可愛いよ、多英ちゃんは」
「……」
「そっか。自分に自信がないんだね。……ま、とにかくここじゃなんだし、事務所に行って詳しく話をしてあげる。この近くなんだ」

 更に駅から離れていく方角を指差される。

 黙って家を出る時、母はダイニングで何やら書き物をしていた。どこにも出掛ける予定はないらしかった。今夜、オッサンは来るだろうか。昨日来たばかりだし、休日だから難しいかもしれない。そうなると、文房具を買って家に帰ったら、ずっと母と二人きりだ。

 昨日、最近は大人しかった母が久しぶりに暴れた。オッサンから金をもらっている時から多少怪しかったのだが、夜中になってから、突然叫喚が聞こえてきた。

「おいこら、ブスッ。出て来いっ!」

 何かが割れる音、オッサンの宥め声。

「やっぱりその金返せっ、……おいっ、聞こえてんだろっ、ブスッ!」
 これで可愛い服でも買ってきなさいと言われていたのが、よっぽど気に入らなかったのか、「どうせ参考書買うってのもウソなんだろっ。開けろよっ、開けろってっ」

 自分から入ってこないのは、きっとオッサンに羽交い締めにされているからだ。もちろんこちらから部屋を出て行きはしなかったが、出ていったならば、何をしでかす気だったのだろう。キッチンの包丁棚には、オッサンが誂えた鍵がかかっているはずだが。
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