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姦譎の華
第3章 3
「じゃあ役会の週の土曜日は?」
「海外出張から帰ってすぐで大丈夫なの? ……あ、でもダメかも」
「何か予定?」
「うん。その週、私、病院だった」
「えっ」

 横臥した光瑠の腕を頭に敷いていたが、慌てた彼が身を起こして顔を覗き込もうとしたから、すかさず枕ではないほうの手を握った。

「びっくりしすぎ。ただの検診。会社のだと年に一回だし、女はね、色々あるでしょ? 別に具合が悪いわけじゃないから」
「なんだ……」

 安堵した光瑠が体勢を戻したが、多英はとらえた手を元の位置ではなく、汗の引き始めた自分の脇腹へと乗せた。

「こら」
 早くも手のひらが登ってきて、バストを持ち上げるように慈しんでくる。「そこは今度じっくり調べてもらうんだから光瑠くんが調べる必要ないよ。べつに変なしこりとかないでしょ?」
「怖いこと言うなよ」
「だから定期的にちゃんと調べてもらうの。光瑠くんだって、私がいつまでも健康で、うつくしーい、奥さんでいて欲しいよね?」

 冗談めかして言うと、返事をする代わりに、額と、それから唇を吸われた。

(……)

 彼の影が去りゆく。仰向けの多英からは再び、ごてごてしい装飾の天井が見えた。ダウンライトに照らされた二人の裸体が、いくつもの小さな鏡に映っている。じっと眺めていると、その一つ一つが、現実を反射したものではない、並行世界のそれぞれを映しているように思える。

「──多英さんのお母さんにも伝えようね」

 胸乳の心地よさにかまけていると、天井ではなく横顔を眺めていた光瑠が静かに言ってきた。

「……そうね」

 とは答えたものの、心の底から同意しているようには聞こえない言いぶりとなってしまった。少なからず、胸の甘さが凪いでいく。

「俺が必ず幸せにする、って伝えるよ」
「よろしくね。……伝えても、もう何を言われてるかわかんないだろうけど」
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