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姦譎の華
第21章 21
21


「びっくりしたでしょ? 驚かせてごめんね」
「いや、ぜんぜん構わないんだけど、本当に大丈夫?」
「うん。園も大袈裟なんだから。ちょっと風邪ひいて熱出しただけみたい」

 いきなり光瑠から電話がきて驚いた。

 母が体調を崩して施設が連絡を取ろうとしたのだが、何度かかけるも出なかったために、第二連絡先として登録していた光瑠の番号へとかかってしまったのだった。まさか職員も、海外へ繋がったとは思わなかったろう。

「とにかく帰ったらお見舞いに行こう」
「無理しなくていいわ。戻ってきたらもう治ってるわよ、きっと」
「でも……、あの話もしなきゃいけないし」
「あの話って」

 電話なので伏せる意味はない。
 自然と、笑ってみせることができた。

 光瑠の帰国は延びていた。

 事前協議は充分になされており、支障なくまとまるだろうと践んで渡航したにもかかわらず、土壇場になって新たな条件を追加されていた。人情よりも便益を重んじ、駆け引きに長けた海外企業では無くはない話だったが、思いのほかに相手が強硬で、やむなく光瑠は滞在予定を変更して折衝に努めていた。

「今は仕事に集中して。今度の提携の重要性を室長に言うのもおかしな話だけど」
「わかってるよ。……でもさ、こんなことになるんなら多英さんにも来てもらったらよかったよ。それなら相手もイチコロだったのに」
「部下を美人局みたいなことに使わないでくれる?」

 もう一度笑ってみせると、光瑠もふきだした。
 そして、

「……多英さんは何ともなかった?」

 訊きたくてきっかけを窺っていたのだろう、和やかな雰囲気に便乗して問うてきた。

「私? ほんとにもう心配しすぎ。ちょうど検査中でね、だから電話に出られなかったの。問診でも何も言われなかったから、心配しないで」
「それならよかった。もう家?」
「ううん、まだクリニック。結構混んでて支払い待ち……って、呼ばれたわ。ありがとうね、わざわざ電話してきてくれて」

 話を切り上げようとすると、

「あっ、多英さん」
「ん?」
「愛してるよ」

 出し抜けに、告げられた。

「……どうしたの、いきなり」
「言っちゃいけない?」
「ううん、そういうわけじゃないけど」
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