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姦譎の華
第22章 22
 羽振りはいいようだから三度目のデートに応じたのだが、間違いなく次はナイな、と見限ったところで、ようやく坂を登りきり、大通りへと出ることができた。

「ちぇっ、朝まで愛紗実ちゃんと一緒にいれると思って楽しみにしてたのに……」

 ちぇ、とか、そういうとこだっての。
 店では終止符のたびにドヤ顔だったのに、歩いているうちに語尾が幼なぶっているのは、気前よく開けさせたビンテージワインが回ってきたせいだけではないだろう。

 すみません、と眉をハの字に下げてやったが、愛紗実は何の未練もなくポケットから手を抜くと、肩を落とした男の向こうから来た空車を停めた。

「もうちょっとだけでも一緒にいれないかなぁ? 愛紗実ちゃんのために仕事頑張って、急いで九州から帰ってきたんだよ?」

 さっさと乗車し、やれやれ寒かったと一息ついたのに、まだ、口説いてくる。
 食事中もスターターセミナーの話はさんざん聞いて、大したことのない顔の広さもたくさん褒めてやったではないか。

 それに、何も仕事を頑張っているのは、男だけではないのだ。

 今週は少し、忙しかった。個人のタスクが過多だったというわけではなく、原因は別のところにあった。

 あの、主任秘書のせいだ。

 キャリア官僚との「懇親」を手伝わされたときには、華村多英はいつも通りの所作振舞いで、スケベオヤジも、そして自分をも軽くあしらってみせた。せっかくこっちから飲みに誘ってやったというのに、素っ気なく断られたことを思い出すと、いまだに肚底からムカついてくる。

 しかしその翌日からは、どうも様子がおかしかった。

 社長に心配されたとおりに集中力を欠き、血色も良くはない。事実、勧めに応じて早退していった。
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