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姦譎の華
第22章 22
「あの……」
 諦めようとしたその時、暗がりから声をかけられて飛び上がりそうになった。「さっきもここ、通りましたよね」

 大声で救けを呼ぶ準備をしたが、近づいてきた人物は、水商売と間違えやがった男とはだいぶん毛色が異なっていた。チャラッチャラなら、こんなところでナンパかと呆れるところだが、おそらくは自分よりも年下の、まるで冴えない男の子。いかにも勇気を振り絞ってますと声が震えており、恐怖心を感じるだけ損だった。

「もしかして、ハ、ハプバー、探してるんですか?」
「はぁ……?」
「そこ、です。看板も出てないから、わかりにくいんですよね」

 男の子が示したのは、薄汚れた古い低層マンションだった。二階、三階にあるベランダは、外に面したガラス戸全てが目張りがされている。しかし施工が甘いらしく、黒々とした窓の辺縁からは部屋の明かりが漏れていた。中に人がいるのは間違いない。

 で、それが何だというのだ。

「あの……、もし、よかったら、僕とペアになってくれませんか? 女性一人で入るよりも、カップルになったほうが安く済むので……」

 じゃない、と思っていたら、或る意味ナンパだった。まだ、普通にナンパしてくれたほうが、精神衛生上好ましかったかもしれない。勇敢にも声をかけてきたところまでは褒めてやれるが、オトコを自ら探しに行かなければならないような女に見えたのだろうか。だとしたら、目玉を繰り抜いてよく洗ったほうがいい。

「あのさ、そういうのマジでカンベ……」
「なんか今日はすごい日だなぁ。この店、そんなに儲かってるようには思えないのに。何かイベントとかあるんですか? お姉さんみたいなキレイな人が来るし、さっきもすっごくオトナっぽい超美人さんが入ってったし」
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