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姦譎の華
第23章 23
「いいえっ……、こ、これは、その……脅されたの」
「脅された?」
「ええ……、酒井さんのことで」
「あのバカ女の件。どういうことですか?」

 光瑠を持ち出されてようやく声を取り戻した多英は、口を衝くまま、

「それは……、私が、酒井さんの取引に細工をした、から……」
「てことは、華村さんも横領をしてた、ってことですか?」
「でも、自分のために使ったわけじゃないの。藤枝さんなら……、わかるでしょう?」

 何故、愛紗実がここにいるのか。まず質すべきはそこだった。けれども一度弁解を始めてしまったら、方向修正は利かなかった。脅迫者たちが最初に用意していたネタは弱みでも何でもなかった。真相とは食い違う。しかし今、多英が心から願っているのは、脅迫を受け入れた理由について、愛紗実が、自分が述べたとおりに信じて欲しいということ一点のみだった。

「あー、なるほど、『交際費隠し』、ですか」
 オーバーに頷いてみせた愛紗実は、乱れてしまった髪を後ろへ払うと、ブラックスキニーのハイウエストへ手を置き、背後の二人を見やった。「……ま、たしかにおかしーとは思ったんですよね。いくら欲求不満だからって、こんな奴らと、なんて、女なら絶対有り得ないですもん。ていうかさー」

 ようやく、笑いは止まっていた。

「そこの太ったオッサン、ずっとキモい感じで口説いてたけど、華村さんほどの人があんたみたいなの相手にするわけないでしょ? 自分の顔のレベルよく考えてほしい。それから」

 島尾を切り捨てた刀を稲田にも向け、

「そっちのちっちゃいオッサンも。ねぇ、いつまでパンツかぶってんの? 稲田様と呼べとかイタすぎて聞いてらんない。あんたなんかに様付けとか、一生ナイから。わかってる?」

 爆笑していたときとは打って変わり、真顔で二人を謗った。つまり愛紗実は、今しがたの痴濫を、ずっと見ていたということだ。

 にもかかわらず、多英は羞恥に苛むことなく、胸をなで下ろしていた。懼れていたことが現実のものとなったのだが、直感されたほどには、事態は深刻ではないのかもしれなかった。愛紗実の話しぶりは、男たちを真率に蔑んだものだ。彼らを詰っているあいだにも、忿懣はいや高まっているようだ。
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