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姦譎の華
第23章 23
 普段やたらに絡んでくる同僚にとっては、横領の件も脅迫の件も、恰好の好餌のはずだった。なのにこの機に遇して不正に義憤を感じている様子はなく、ふしだらに不義をはたらいていた上司よりも、弱みを楯に愚劣な欲求を満たしていた男たちを侮蔑している。

「女にこんなことするなんて……、ほんと、許せない」

 愛紗実は悔しそうに、そう付け加えた。
 そうだ、彼女も秘書であり、女なのだ──

 多英は顔を上げた。
 そこで時間が止まった。

 重たい塊が、鳩尾から背中へと通り抜けていった。

 ニットへめり込んでいたブーツが退いていくのを信じられない思いで眺めていると、

「おごっ……!」

 間髪入れず、もう一度同じ位置にポインテッドトゥが突き刺さった。時間は動き出し、腹腔が裏返りそうな苦悶にたまらず突っ伏した。すかさず愛紗実が、まだわずかに浮いていた頭をつかんで地へと押し付けてくる。

「ったくっ、ウソついてんじゃねえよっ!」
「ぐ……、う、うそじゃない、わ。さ、酒井さんの……」
「そんなバカ女の話なんかしてねえよっ。謝れっ。汚ったねえ手ぇ使いやがって……おらっ、謝れよっ!」
「な、何のこと……」
「トボけんなっ! こいつらから全部聞いたんだっ。騙しやがって……んっとによぉっ!」

 頭を揺さぶられ、何度もカーペットに額を打った。抗おうにも、腹筋に力を入れると二発の蹴りがもたらしたダメージで胴が千切れそうだ。

 だが多英は──愛紗実の罵声の中に聞き捨てならない文句を聞き取っていた。

「ぜ、ぜんぶ……」
「あ?」
「……んあっ!!」

 朦朧としてきた脳に鞭打ち、両手を頭にかざして十指を思い切り突き刺した。

「いったぁっ……!」

 男のような言葉遣いだった愛紗実が、かよわい悲鳴を上げて飛び退く。両目をしばたかせて起き上がった多英は彼女には構わず、すぐに後ろを振り返った。女たちの取っ組み合いに棒立ちだった二人は、想像もしなかった怨嗟の眼差しに惨慄している。

「は、話したの……?」
 炎に炙られるように、ゆっくりと体を持ち上げ、「ぜ、全部……話したのね?」
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