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姦譎の華
第24章 24
24


 喉がいがらむ。

 煙草なんて、日常的に吸っているわけがなかった。臭いが服や髪についてしまうし、歯の色も悪くなる。だいいち美容に悪い。ごく稀に、気分を落ち着けたいときにだけ、人目につかないところで吸う程度だった。

 しかし灰皿にはいくつもの吸い殻が転がっていた。こんなに連続で、集中的に吸ったのは初めてかもしれない。

 何本吸っても気が鎮まらなかった。

「う……、あ……」

 広いベッドの上に、女が全裸で横たわっている。
 股の中心へ縄の張形を突っ込まれ、自由にならぬ四肢を撚じらせている。

 この女、自分といくつ離れてたっけ?

 腕を吊られて引き上げられた双つのふくらみは、婉然とした丸みを保ったまま外へと開かれていた。下腹からは長い脚が真っ直ぐに伸び、間を繋ぐ括れたウエストが、こと滑らかに波打っている。

 自分よりもバストが大きい女なんてたくさんいる。自分よりも背が高く、脚が長い女もいくらでもいるだろう。

 だが大概は、それだけだった。

 女同士で話す中、ブラのカップが大きいこと、パンツのレングスが長いことを知らされたとしても、何ら敗北感を覚えるものではなかった。それを誇る女がいるとしたら、そこしか誇るところが無いことの裏返しだ。やたら胸元を開いた女がいようが、下着が見えそうなミニの女がいようが、彼女たちよりも他人の興味を引かせることにかけて負けたことはない。

 しかし、目の前に磔にされている女は、違った。

 自分よりもバストが大きく、脚も長かった。かつ、ただそれだけだと、鼻で嗤うこともできなかった。この女が入社してきて初めて挨拶をしたとき、顔を上げた瞬間に内心怯んでしまったことは、いまだ封印したくともままならない黒歴史だ。

 たしかに、美しい女だった。

 ◯◯歳なのに若い。◯◯歳なのにキレイ。美熟女や美魔女なんて所詮はアンチエイジングの賜物であって、「なのに」をつけなければ価値が生まれない類いのものとは、この女が持っているのは地からして異なっているように思えた。
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