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姦譎の華
第25章 25
25


 なぜ、あんなことをしてしまったのかわかりません。どうかしていたとしか思えません。

 なかなか上手い言い訳だと思う。仮に何か心当たりを答えさせたとしても、本人がどうかしていたとあっては事の真偽は定かとならないのだから、いくら詰め寄ったって納得できる回答は得られない。それでも地の果てまで追及したならば、真実を明らかにしようという仮飾は剥がれ落ち、問責する権利を振りかざしたいだけの、痛々しい素顔を晒すことになって、被害者としての正当性は失われてしまう。生まれた街の小学校の隅々で行われていただろう、陰口ならばいざ知らず、面と向かって、かつ、この不面目を受け入れた上で、最後まで難詰する勇気と根性を持った人間は稀だ。

 つまりこの言葉は、これ以上の詰問はしないでくださいね、という意思表明に等しかった。

 ただ、少なくともかつての自分は、どうかしていました、なんてとても言えたものではなかった。なぜあんなことをしてしまったのかも、自分として、その当時からよくわかっていた。

 そして、人生を何度やり直したとしても、また、しでかすのだろう。
 あの、母の娘である限り──

 自室の壁際に置いていたベッドに座り、後ろにクッションを挟んで凭れていた。履いていたショートパンツはフローリングの遠いところに落ちている。ショーツは膝下に捻じれて丸まり、恥毛には荒い鼻息が吹きかかっていた。

「す、すごいぞ華村……」

 何がすごいのやらよくわからない。
 女の子のことはよく褒めましょう──男の子向けの雑誌にはそんなことが書かれているのだろうか──特に、女の子の性器を見せてもらったときには絶賛してあげましょう。

 ありがとう、と言うのも変だから、何も言わず黙っていると、畝の両側に触られた。

「チュ、チューしてもいいよな?」

 どうぞ、と言うのも変だから、聞こえないよう溜息をつき、少し踵を外へと置き直した。

 味についての感想が漏らされようものなら、さすがに何か返答してやる必要があったのだが、彼は何も言わず、こわごわと舌を這わせていた。いつかの学校帰りに見た、雨後の水たまりを飲んでいた野良猫が思い出される。繰り返し縦に動くつむじを眺めていると、もうひとつ溜息が出た。
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