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姦譎の華
第25章 25
「俺のことはいい。君は彼女に何をする気だ」
「あっ、あのっ……、こ、これはその……、はっ、華村さんが……」
「人のせいにするな。とにかくズボンを履きなさい」
「は、はい……」

 避妊具は付けたまま、大急ぎでデニムを上げている。履いたというよりも、何はともあれ未熟な肉杭は片付けました、といったところだ。

「履いたなら、出て行きなさい」
「あのっ……、ぼ、僕はただ……」
「君をぶん殴ってしまう前に、早く逃げてくれ」

 拳の握りが強められて蒼くなった彼は、転がるように部屋を駆け出した。
 玄関でけたたましくドアが閉まる。

 閑かになった。

 正確には、引き続き蝉が鳴いている。マンションの前の道で遊んでいる子供の声や、彼らに注意を促す原付のクラクション、エアコンが冷気を吐き出す音。普段気にも留めない雑音たちが、重くなってしまった部屋の空気を懸命に宥めようとしていた。

「……何をしてるんだ」

 やっと息をついたオッサンは、握りっぱなしだった手を緩め、勉強机から引き出したチェアに腰掛けた。

「休み明けに出す生徒会報の原稿まとめて、それから、勉強教えてもらってたの」
「そうは見えなかったけど?」
「盗み聞きしてたの?」
「こっちが訊いてるんだ」

 不機嫌そうだ。

 自分が家賃を払っている家で、知らない男の子が半人前の肉杭を晒し、一夏の思い出を作ろうとしていたことが、そんなにも気に入らなかったのだろうか。

 娘のカラダを使って──

 いや、娘ではない。母はいまだに愛人だった。

「パパって言ってあげたんだからそんな怒んなくても。野村さんとか言われるよりいいじゃん、余計にヘンに思われちゃう」
「名前の呼び方なんてどうでもいい、いまは──」
「社長になったら、社長、て呼んであげようって思ってるのに。……なんかフーゾクの呼び込みみたいだね。よっ、しゃちょー……」
「たーたん」
 怒鳴るという行為を忘れてしまったのだろうか、「まじめにしなさい」

 決して、不真面目なのではなかった。
 ベットから立ち上がり、彼にズラされていたブラごとTシャツを脱ぎ捨てる。

「こら、何してる」
「べつに」

 膝にあったショーツも足首まで下げ、足先でフローリングを滑らせた。

「おい、たーた……」
「……べつに」
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