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姦譎の華
第27章 27
 愛紗実は隠匿されていた事実を把みながら、世に評判の同僚秘書を貶める材料にはしなかった。真の意図はわからないが、島尾と稲田と同じように、人知れぬところで陵辱を続けるつもりだ。

「なにそれ。やっすいドラマみたい」
「もちろん、後任には藤枝さんを推挙します。実際、務められるのは藤枝さんしかいないと思ってるから」
「そんで上から目線? で、やめてどうすんの。またどっかで他人を騙くらかして、美人すぎるナントカになるつもり?」
「それは──」
「だめだっ!」
「ゆっ、ゆるさないぞっ!」

 二人が会話を遮った。島尾は動画を撮っていたスマホを降ろして首を振り、稲田は真っ赤になってブルブルと震えている。

「……って言ってるけど?」
「駄目も許さないもないわ。本当に、今日限りで終わりにします」

 首輪をかけていながら背すじを伸ばし、高い位置から毅然と言うと、肘掛をつかむ愛紗実の指が白くなった。彼女自身も気づいたらしく、すぐにその手で鬢の毛を摘んで毛先を捻りつつ、

「意志は固いみたい。……ま、別にいいけど。今日も狂わせて撤回させるだけだから」
「しないわ」
「そ。とにかく始めよっか。──挨拶しろ、ババア」

 声色が一変すると、姿勢は真っすぐなままなのに、スカートの中で牝奥がヒクと返事をした。ギラつく瞳に見据えられ、膝が勝手に屈していく。

「どうか今日も、反省をさせてください愛紗実さま」

 正座となって深々と頭を下げる。声帯を震わせて思惟を音に変える営為までもが、自分の意志を離れているかのようだ。

「プルプル動くなっ! 私がいいって言うまでじっとしてろ」
「……はい」

 罵声で筋肉の全てが引き締まると、ゴツリと、後頭部を硬い物が叩いた。

「ほらもっとだよ。ちゃんとおでこを擦りつけろっての」
「は……、はい」
「だからっ、もっとだっつってんのっ」
「いえ、これ以上は……」
「口ごたえすんなっ、ババア。秘書のくせに土下座もロクにできないのかよっ!」

 床に伏せた時点で、額はフロアと接している。しかし髪の結び目をパンプスに踏みにじられると、もっと下げる余地があるのではないかと、首が、腰や背が、何とかして体を縮めようと努めてしまう。
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