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姦譎の華
第28章 28
 報告を無下にされた愛紗実だったが、

「国内の投資家にも積極的にアプローチしているようです。まだ若手中心ではありますが、大物が関わり始めたら情勢は厳しくなります。ここで遅れを取るわけにはいきません」
「だから提携を急いでるんじゃないか」

 成約が遅れていることを非難しているように聞こえかねないのは承知していただろうに、さして動じずに光瑠の声色を濁らせる。

「私の個人的なルートでなら、もっと情報を引き出すことができます。前にもお伝えしましたとおり、すでに二、三人は目星がついています」
「情報?」
「向こうの進捗具合も投下資金も、その工面先も把握できます」
「スパイをさせるってことかい?」

 部下からは聞かされたことのない提案だった。おそらくは敏光も知らないだろう。しかし、前にも伝えたとおり……光瑠は知っていた様子だ。

「そこまで大袈裟なものではありません。当然の駆け引きです」
「二重スパイをされるかもしれないじゃないか」
「彼らはコントロールできます。もちろん、私がいれば、ですが」

 愛紗実はニッコリと微笑んでみせた。光瑠は結んだ唇を少し尖らせて額を撫でている。困った時によく見せる仕草だ。

「まだ……君はそんな怪しげな連中と付き合ってるのか。彼らが良識なんてない、金の亡者だってことは藤枝さんだって知ってるだろ」
「良識だけでは勝つことはできません。会社のためです」
「会社のため? ……本当に?」

 すると愛紗実の顔から笑みが消えた。

「……今回の提携については、役員の中でも反対している人は多いですよ」
「わかってるよ、そんなことは」
「社長は室長に手柄を立てさせようとされてます。提携が成功すれば、執行役員にされるおつもりでしょう」
「それもわかってる。親父が、僕を百パーセント信頼してこっちに送り込んでいるわけではない、ってこともね。きっと裏で何か色々動いてるよ」

 光瑠は背後にツインのベッドを背負っていた。ホテルにいるようだ。部屋に一人でいるにもかかわらず、敏光の話題を出す際には、周囲を気にかけて黒目が忙しなく動いていた。自分以外の会社の人間の前で動じたところを見せるなんて、光瑠らしくない。
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