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姦譎の華
第28章 28
 手を使えなくなった無防備な顔面へ向け、贅肉が突進してくる。先端は舌の根を越え、軟口蓋を抉った。首を横に振るっても、鼻下を縮れ毛が擦り、汗臭い肌に額がめり込むばかり、嗚咽はもちろん、喉奥に逆流が轟く音すらマイクが拾ってしまいそうで、強く抗うことができない。

 ローテーブルの反対側、捲れっぱなしのタイトスカートから丸く差し出されたヒップの正面には、当然のごとく稲田が待ち構えていた。二本指が中に戻され、表裏逆となった指先が湛えられた粘液を掻き出すように弄くってくる。それだけでも肉茎を吐き出して咆哮を放ちそうなのに、すぐそばで心細げに震えていた皺口が、稲田に見逃してもらえるはずがなかった。

「ンッ……!」

 隘路に射し入ってきた舌は、そこに何があろうが頓着しない貪欲さで粘膜を味わった。神経を直接しゃぶられるかのような悪寒が背すじを抜け、括約筋を搾ろうとしても、壁一枚挟んだ隣の指先に圧せられると、簡単に結びがほどけてしまう。

「……じゃ先輩、コレを見ても、そんなこと言える?」

 あいつとは違うのだ。ずっとそう考えて、やっと手に入れられそうだった幸福が──愛紗実に楯突いてでも、彼女を毀滅させてでも手に入れようとしていた夢が、砂となって指間から抜け落ちていこうとしていた。光瑠はどうなってしまうだろう。愛してると言ったばかりの女が、肥えた男の肉茎を奥深くまでしゃぶっていたら。差し出した指輪に左手の薬指を預けた女が、貧相な男に手淫されながら、排泄口へ舌を突っ込まれていたら……。

(……っ! はあっ……、あっ……!)
 心臓を斬り裂かれる思いに震撼しなければならないのに、奥地から淫りがわしく蜜汁が迸った。(やっ、光瑠くんっ……)

「──結婚するんだ」

 光瑠のひとことに、まさに反転ボタンを押下しようとしていた愛紗実は親指を止めた。

「……は?」
「多英さんと結婚するんだ。もうすぐね」
「え……なんで? こんなのと……、本気?」
「ああ、この前プロポーズして、OKをもらった」
「え、なんなのそれ……、……あ、そういうこと?」

 彼女も混乱していたが、「こんなの」と言ったことに気づいていない光瑠もまた、スクリーンに映されているほどには冷静ではないようだった。
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