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姦譎の華
第29章 29
「言うとおりにしないと、家から出て行ってもらうぞ、学校にも行けなくなるぞって」
「……」
「嫌だったんだ。ほんとうだよ? 嫌だったけど、どうしていいかわからなくて」
「……」
「ずっと、オジサンに……その……」
「……、……なっ、……何をしてきたのっ!」

 固まっていることにすら耐え切れなくなった突然の詰問に、演技ではなく肩が跳ねた。勇気を出して告白してきた娘に対し、「何をされてきたの」ならともかく、「何をしてきたの」とは甚だ不穏当だ。しかしそれは、母がこの数年、必死に再構築してきた仮面が、崩れ落ち始めている吉兆でもあった。

「触らされたし、口でもさせられたよ、オジサンの」
「触……だ、だって、彼氏……、彼氏、いたじゃない」
「オジサンが許可したからなんだ。周りにバレないようにって」
「ばれ、ない、ように……?」
「男の子と付き合ってもいいけど、エッチとかするのは禁止だったの。私の体はオジサンのものだからって。18になるまでは淫行になるから……、まだその……、オジサンとは、セックスだけは、してない」
「だけ……」
「でも今月だよ、誕生日。そしたらきっと……」
「うそ……、うそよ、そんなの……だってあの人……、わたし……」

 背中の手がパッと引いていった。腕を交叉させ、自分を抱きしめている。

「信じられない、よね。でも本当なの。お願いママ、信じて」

 事実無根だと思いたくとも難しいだろう。実際、キスをしてきたし、肉杭を扱いてきたし、口にも含んできた。人より大きな胸を揉ませたし、股ぐらを熱い牡の硬みに擦り付け、噴射する白濁を呑み、浴びてきた。

 ただ、これに至った事の次第が、虚偽なだけだった。二人でいるとき、どんなことを話し、どんなことをしているのかは知らない。しかし何気ない言動や仕草に、欠片でも思い当たるところがあったならば──それが実際は、まるで無関係なことであったとしても、もはや沸き起こった猜疑を振り払うことはできないだろう。再婚相手が義理の娘へと手を出す。調べてみると世の中には枚挙のいとまがなかった。母だって一度は耳にしたことがあったにちがいない。容易に考えつくベタベタの悲話ながら、おかげさまで、娘の告白はリアリティをもってざくざくと突き刺さってくれたようだ。
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