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姦譎の華
第30章 30
 ならば再び青になるのを待つしかないのだが、信号は一向に変わってくれなかった。理由に気づく。赤灯が映し出した脇の看板には『夜間押しボタン』。先ほどはコンビニからの高揚を引きずっているあいだに、愛紗実が押していたのだろう。

「押して……、ボ、ボタ、……ボタン……ねえっ、……おし、押してってば……ねえっ!」
 風に負けないよう何度叫んでも、愛紗実は中洲に取り残された女を冷酷に眺めるばかりだった。「……くうっ!」

 多英はバレッタを投げ捨て、垂らした髪とともに顔を覆った。手のひらが熱い涙に濡れていく。隠したいところはいくらでもあったが、隠すならば、顔しかなかった。

「……もう、ゆるして……、おねがい、ゆるして……」

 だが──、熾烈な羞恥と惨めさに苛まれているのに、奇妙な人心地も、感じずにはいられなかった。

 これは、罰なのだ。やっと、罰せられるのだ。一人の人間を壊してしまった罪人に対する、重い重い厳罰なのだ。

 割り座と下ろしたヒップの下で、夥しい蜜がアスファルトを濡らしていく。









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