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姦譎の華
第31章 31
 つかまった島尾に凭れかかるように片脚立ちとなり、膝が高く持ち上げられる。いびつなM字となった中心で、褌のように恥丘に密するゴム生地の周辺は、湯気立ちそうな蜜にまみれていた。唯一動かせる片手が隠そうとしているものの、広がった惨状を塞ぐにはまるで足らない。

「見て、こんなことされてんのに濡らしてんの。心配することなんかなかったでしょ?」

 そう教えてやっても、トップレスで片脚開脚を披露している女を見る男の子の耳には、まるで入っていないようだった。

 見惚れている。こいつもまた、見惚れているのだ。
 こんな女に。

「あんなとこにずっと裸でいるなんて、ほんと、ありえないよね。私なら耐えられないなあ。絶対、舌噛み切って死ぬと思う。のうのうと生きてるなんて信じられない」

 人として許されないことを言っているのはわかっている。

 変態男たちを悦ばせる語彙は取り揃えているつもりだが、いま口を衝いたのは、肚の底からの悪意だった。苦々しさを押して口にしたのに、多英が項垂れても、気分はまるで晴れない。この女の正体を暴いたところで、何か自分に益があるわけではない。光瑠はもう、戻っては来ない。この女を貶めたところで、自分の評価が上がるわけでもない。『美人すぎる秘書』に、成り代われるわけではないのだ。何をしても、何もしなくても、自分の人生には何ら影響はない。

 けれども苦々しい衝迫が、次々と溢れてくる。
 このバストは何だ。この長い脚は何なんだ。
 この女は──

「ぐっ……」

 短く呻いた愛紗実は、膝頭が出るほど足を上げ、М字の真ん中へ靴底を当てた。

「あ……!」

 押し出すと、バランスを崩して島尾と稲田もろとも後ろへと転げていく。

 ぷっと煙草を吐き棄て、

「いつまで二本足で立ってんのよ。……行くよ」

 踵を返して進み始めた。

 実を言うと、愛紗実自身も、どこへ向かって突き進もうとしているのかわかっていなかった。足を上げたとき、フレアスカートの中に冷気が入り込んだ。ありえないほどぬかるんでいる。苦々しさに衝かれるまま、愛紗実は潮の香りのする雑木林を目指していった。










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