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姦譎の華
第32章 32
 学校帰りに誰かと遊びに行った経験はない。母と二人暮らしなので、色々と家のことをやらなければならない、そう言ってクラスメイトを遠ざけてきたから、皆気を遣って無理に誘ってくることはなかった。だから高校生が道草をするとしたら何処でだろうと自前で考え、真っ先に思いついたハチ公に会いに行った。来てはみたものの、どこでどう道草を食えばいいのかわからず、ファーストフードに入って飲みたくもない炭酸飲料を啜った。あいかわらずオッサンからの返信はない。

 近くの席では軽そうな男の子二人がゲラゲラと話をしている。一人が自分に気づいたが、正面を向き直ると更に下品な話題を友達に吹っ掛けた。そう都合よくモデルがどうだのと言ってくる偽業界人も現れず、あまりにも店内がかまびすしいのに耐えかねて、どっぷりと陽が暮れた外へ出た。どこともなく歩いたが、どれだけ歩いても、制服にダッフルコート姿でフラフラしている女子高生をナンパしたり、騙して物陰に連れ込んだり、問答無用で拉致しようという輩はいなかった。

 最も現実的な予想では、母から追及されたオッサンが、仕事を放り出してでも自分の元へ駆けつけるはずだった。

 ついた嘘を糾弾してくる。しかし何年にも渡って淫行を繰り返してきた事実は変わらないのだから、事実無根ではないし、オッサンだって無罪というのはありえない。負い目に固まるオッサンに跨り、裸の股ぐらを擦り付ける。母はこの先、歳をとっていくしかない。自分はこの先、オトナの女へとなっていく。まだ知らないオトナの快楽を、自分好みに教え込むことができる。約束通り秘書にすれば、いつも連れ歩き、欲求を満たしたい時に満たすことができる、大変都合の良いオンナの出来上がりだ。

 明日、誕生日を迎える。18になる。オッサンの肉杭が突き刺さり、牝の穴から血が流れ出て、自分は正式に、オッサンのオンナになる──はずだった。

 しかしオッサンが現れてくれなければ、何も始まらない。

 そんなことを考えていたら、二つの懸念が、今になってむくむくと膨らんできた。
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