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姦譎の華
第4章 4
『今からお歴々とのパーティ。ずっと雨。じめじめしてて気が滅入る』
携帯を見ると、光瑠からメッセージが入っていた。
『おつかれさま。こっちは例の食事会終えてもうすぐ家』
開封を確認せずに画面を伏せ、組んだ脚の上へと置く。
環状線は詰まってはおらず、快適に流れていた。色とりどりの街灯りが軽薄な明るさで都会を飾っている。だが先週末ドライブに行った内房の夜景よりも、全く殺伐として見えた。高速を使うことを許してしまったのが、いまさらながら後悔されてくる。このままでは、下道を使うよりも早くに着いてしまう。
(やっぱり、手、洗いに行ってもよかったかな)
知らず知らず、スマホを爪でコツコツと叩いていた。加えて、コートを割ったベージュの脚にバックミラー越しの視線が射していることにも気がついた。
膝を下ろし、コートの中へと隠──さない。
無礼千万な視線を退けたいのは山々だったが、多英は思い直して不敵な居ずまいを保ち続けた。低劣な輩の、低劣な欲望を見抜いたからといって、不機嫌になりこそすれ自衛に走ってしまっては、かえって彼らよりも柔弱であることを認めたことになる。
弱い女にはなりたくない──
努めて意識の外側へ押し出そうとしても、今週に入ってから、やたらに母の顔が浮かんできていた。
普通の女なら、プロポーズを承諾する前に、結婚というものについてとことん現実的に考え抜くのだろう。しかし自分は、光瑠へ頷いてみせてから、だんだんと現実味を感じ始めている。
多英はコートを着てもなお、豊かなふくらみを窺わせる袷を握った。
まだ外だ。気を緩めてはならない。
携帯を見ると、光瑠からメッセージが入っていた。
『おつかれさま。こっちは例の食事会終えてもうすぐ家』
開封を確認せずに画面を伏せ、組んだ脚の上へと置く。
環状線は詰まってはおらず、快適に流れていた。色とりどりの街灯りが軽薄な明るさで都会を飾っている。だが先週末ドライブに行った内房の夜景よりも、全く殺伐として見えた。高速を使うことを許してしまったのが、いまさらながら後悔されてくる。このままでは、下道を使うよりも早くに着いてしまう。
(やっぱり、手、洗いに行ってもよかったかな)
知らず知らず、スマホを爪でコツコツと叩いていた。加えて、コートを割ったベージュの脚にバックミラー越しの視線が射していることにも気がついた。
膝を下ろし、コートの中へと隠──さない。
無礼千万な視線を退けたいのは山々だったが、多英は思い直して不敵な居ずまいを保ち続けた。低劣な輩の、低劣な欲望を見抜いたからといって、不機嫌になりこそすれ自衛に走ってしまっては、かえって彼らよりも柔弱であることを認めたことになる。
弱い女にはなりたくない──
努めて意識の外側へ押し出そうとしても、今週に入ってから、やたらに母の顔が浮かんできていた。
普通の女なら、プロポーズを承諾する前に、結婚というものについてとことん現実的に考え抜くのだろう。しかし自分は、光瑠へ頷いてみせてから、だんだんと現実味を感じ始めている。
多英はコートを着てもなお、豊かなふくらみを窺わせる袷を握った。
まだ外だ。気を緩めてはならない。