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姦譎の華
第32章 32
「エゥ……」

 唾液に濡らし、両手を突っ込み直す。豆皮を剥き、塗りまぶす。だがやはり、何か神経の故障が疑われるほど、牝の場所は一向に凪いでいた。はやばやと乳首を見限ったのは、硬くなってはいるが、それは気温によるものだとわかったからだ。

「はんっ……」

 シンとした部屋の中で喘いでみても、あまりにもわざとらしく、虚しさはとてつもなかった。気乗りしない唾液腺を励まして、指で移すことで穴縁を充分に潤わせるが、奥地は頑としてだんまりを決め込んでいる。

 いったいどれだけの時間、自分の体と格闘していただろう、玄関の鍵が開く音が聞こえた。

 ついにオッサンがやってきたのかと、飛び起きてナイトウェアを整えたが、

「……何してんの、こんな時間に」

 入ってきたのは母だった。
 失踪することなく、帰ってきたのだ。

 テレビもつけずにソファに座っていた娘を見下ろしている。その眼には、良い母親であろうとしていたけなげさはなく、そしてまた、昨晩ベットの上で泣き濡れていた痛々しさもなかった。

 そんな母に、何とかして自慰をしようとしていました、なんて絶対知られてはならず、

「寝れなかったから携帯見てただけ」
「……そう」
 母はテーブルに置きっぱなしの携帯を嘲るように一瞥した。「推薦決まったからって、変なことしてないで早く寝たら?」

 血液が逆流するのを感じた。

「そんなの私の勝手じゃん」
「親に口ごたえしないで」
「なに親ぶってんの? いまさら──」
「うるさいブスッ」

 いかにも子供っぽい反論しようとすると、図らずも、懸念の一つを解消するチャンスに恵まれた。

「ね、ブスって、誰のこと?」
「……おまえのことだよっ。ブスをブスって言って、何が悪いの?」
「違うよ、ママ。私がブスなんじゃなく──」
「だから、うるさい……ブッ、ブスは黙ってろっ!」

 母はリビングの入口で立ったまま、乱れてもいない髪を整えて、こちらにではなく、あらぬ方角に向けて文句を言っている。
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