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姦譎の華
第32章 32
 壊れっぷりを確認し、足らなければここでダメ押しをしておこうと次の言葉を思案していると、後ろから人影が現れた。てっきり一人で帰ってきたものだとばかり思っていたから、

「ね、オジサ──」

 と言いかけたが、オッサンではなかった。オッサンはオッサンでも、ぜんぜん別のオッサンだった。

 まずもって、身なりが酷い。では服装をどうかしたら解決かというと、もともとの素材が悪すぎだった。東京に来る前、安アパートに連れ込まれていた数々のオッサンたちと比べても、ワーストを争う醜さだ。

「えっ。あ……」

 そして、懐かしいパターンだった。誰もいないと思っていたのに、部屋に女の子がいて驚いている。
 と、いうことは──

「うぅ……、き、気にしないでいいの。こんなブスはほっといて……あっち行きましょ、ね?」

 猫撫で声。

 母たちは寝室に消え、また、一人になった。

 やはり母は、壊れたのだ。東京に呼んでくれた庇護者を裏切り、家賃を払ってもらっている家に、また、男を連れ込んだのだ。何のためにかは知れたこと。しかも選ばれたのは、過去を振り返ってもかなり酷い部類に入るオッサンだ。かつてより歳をとった母は、ここまでレベルを落とさなければ、引っ掛けることができなかったのだろうか。いやちがう、おそらくは敢えて、そんな男を選んだのだろう。

 寝室から、母たちの声が地を這って聞こえ始める。あれだけ干からびていた股奥が、一気にムズムズとしていく。

 自然とソファから体が浮いた。しかし一歩踏み出すと、膝が笑ってラグに手をついた。床に薄く漂う男と女の声に浸され、思うように立ち上がることができない。そういえば初めて覗いた時も、ふすまへは這って行ったのだった。遠浅の海へ入っていく気分で、絡み合う声がだんだんと大きく聞こえてくるドアのほうへと向かう。

「お、おおっ……、おお……」

 ノブを回し、薄くドアを開くと、蒸れ籠もっていた熱気が顔に吹きかかった。母もまた、衣服が脱ぎ散らかされたベッドの上で四つん這いになっていた。突き出る肉杭を、丹念に口で愛おしんでいる。

「はあっ……、ねえ、き、きもちいい……?」
「あ、ああ……」
「うれしい……」
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