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姦譎の華
第1章 1
 男からしたら、ベージュの下着なんて萎えさせられて仕方がない。そんな通説は、この絶景を臨んだ日には全くの妄言であると言わざるを得なかった。

「はっ……、はっ……」

 痩せ犬のような息を吐き、裾を摘んだ両腕をいっぱいまで伸ばして身を屈める。聖域の真ん中に焦点を結んだままであるから、おのずと上目遣いとなってしまう。

 脚の付け根で緩やかなVの字を描く縁が、仰ぎ見た稲田には笑った形に見えた。古代の彫像が湛えたアルカイックな微笑ではない、間違いなく、妄執に囚われた不貞の者へと向けられた、嫌忌に満ちた侮笑だった。

 こんな笑いを、表でも裏でも、常に向けられてきたと思う。どれだけ惨めな思いを味わせられようが、会社に居残り続けたからこそ、今の僥倖を拝受することができているのだ。

 さきほどから聖女の背後にチラチラと影を見せている島尾もまた、同じ思いだろう──

「……ぐ」

 一期後輩の了察は、低く濁った呻きを漏らした島尾には全く伝わっていなかった。

 女から燻り立つ匂いに昏みそうだ。

 ここまで近づくことができたことで初めて、ヒールを履いているとはいえ、腰の高さの差は思った以上に歴然としていることがわかった。湧き起こる憤慨を込め、両の二の腕をわしづかみにする。わずかに乱れた空気の対流に乗り、芳しい髪の香りが一段と鼻腔を刺してくる。

 吸い寄せられるように頬の脇へ鼻面を近づけ、

「ふ、震えてるじゃないか。怖いのか、ん? ……ふふっ」

 揶揄してやるつもりが、むしろ自分の声が震えていた。取ってつけたような息笑いも、見事なまでの小者ぶりを露呈してしまったと自覚される。

 だが衣服越しに感じる女の腕は、思いのほかに固くなっていた。つまり震えていないまでも、身を強張らせずにはいられないということだ。
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