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姦譎の華
第5章 5
「システム部の人間として、情報流出への意識が低すぎませんか? もっとしっかりしていただかないと」
「はっ、もっ、もも、もうしわけありません!」

 溜息とともに注意され、脊髄反射でテーブルに額を近づけた。
 が、まさにその時、魔が差した。

「ですがこんなことでは──」
「まあ、かたいこと言わないでくださいよ」

 稲田のせいで女のペースに引きずり込まれそうだったから、島尾は強引に割って入った。シナリオは一つしかないのだ。脇道に逸れたら対応できない。

「実は俺たち、あのあと酒井さんに会ったんです」

 横領犯の名を出すと、女の意識がこちらへと戻ってきた。不満、不服しか表していなかった眉の形に、不審が加わる。

「場所は言えないんですけどね、バッタリと。あの子、前は総務にいたんですよ。華村主任が入ってくる前の話ですが」

 でたらめではない。本当に会った。
 金貸し屋の待ち合いで。

 島尾も稲田も何度も世話になっているが、そこで彼女に会ったのは初めてだった。しかも借りようとしているのは相当な額で、いかに貸したがりのグレーな金融屋といっても、借り手の信用力を疑っていた。弁済金を工面したいのか、まだホストクラブに通いたいのか知らないが、受付へ食ってかかる言い分がもうめちゃくちゃで、ずいぶんと神経を疲弊させているようだった。

「まあ、ちょっとメシを食わせてやったんですが、その時にね、変なことを言ってたんですよ」
「変なこと?」
「ええ。『何回も着服したのは確かだけど、こんなに多くはないはずだ』って」
「ですがこのリストが証拠ですよね。すべて酒井さんの事務記録でしょう?」

 たしかに、おかしくなりかけの子の言うことだから、願望や言い逃れが多分に入っていると見たほうがいい。その時はそう思った。

「しかしですよ、このリストと……、えっと、……ええと、つまり」

 肝心なところで島尾の舌がもつれると、

「サーバへのアクセスログと突合すると、この」
 頭を上げた稲田が、もう一つ、同じリスト内容だが行頭にいくつか星を打ったものを差し出した。「印がついてるのは、アクセスしてきている端末が、違います。酒井さんのものでは、ありません」

 稲田の吃りは、ずいぶんとマシになっていた。
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