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姦譎の華
第5章 5
 低い位置からなら、目線の進入角が変わるかもしれないぞ──頭を下げたとき、悪魔に囁きかけられた。折しも島尾が注意を戻させたので、簡単に誘惑に負け、恐る恐る視線を上げてみると、たしかに、脛の隠していた向こうを臨むことができた。

 スカートの最奥まで晒してしまうなんて落ち度が一流秘書にあるはずもなく、太ももの裏側がチラ見えしたにすぎない。しかしいつも膝周りしか拝し得なかった稲田にとっては、その窈窕とした肉づきを覗き見ただけでも、とてつもない収穫だった。

「といいますと?」
「シンクライアントであっても、使用者の、端末の場所はわかります。酒井さんのIDで入っても、です。星がついてるログの端末IPは……、ひ、秘書係、のものでした」

 アクセスログの抜粋を示すと、素人には読めるはずがない記述に目を通し始める。その途中、ふと上目遣いに、

「それで、この件を責任者の私に?」
「いいへっ!」

 涼しげな瞳に見つめられた稲田の声は裏返った。

 これは、拝跪すべき神聖へ仇なす行為だろうか。

 だがあの太ももを垣間見てしまった今、劣欲はあぶくを立てて喉元にまで迫っている。気弱な性格が災いして、これまで冒険というものを試みたことがない。しかしきっと、俺は人生最大のチャンスに遭遇している。全身全霊をかけて取り組むべき価値のある褒美が、テーブルの向こうに二本揃って控えている……。

「ア、アクセスしたのは、はっ、……華村主任、あっ、あなた、様ですっ!」

 稲田は渾身の勇気を振り絞った。

「……なぜ、そんなことが言えるんです?」
「設置端末のカードリーダーにもっ、きっ、記録は、残るんですっ。監査で指摘されて、そのように変わったん、ですっ。それに、部屋の入退室記録もっ、す、すべて、い、一致したのは、華村主任、だけっ、でしたっ……!」

(おお)

 何が稲田をそうさせたのかわからないが、よくやった。

 島尾はいまだにこのデータが、社長秘書の不正をどう立証しているのか理解できていなかった。作戦の中で特に危ないところだったのだが、期待していなかった稲田が、まさかこんな手柄を立ててくれるとは思ってもみなかった。

「そう……。 ……そうなのね」
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