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姦譎の華
第7章 7
 猫撫で声を封じるように、ふすまを閉めた。電気を点けず、暗闇の中で勉強道具をしまうと、隅に寄せていた布団を引き出して床へと入った。次の休みに晴れたら、布団を干そう。そんなことを考えながら瞼を閉じる。

 掛け布団の重みは、湿気のせいではなかった。

 母は、オッサンに謙遜をしたのではなかった。酩酊するあまり、冗談を言ったわけでもない。

 もう、やだやだ、ほんとやだ。
 あの言葉は、寝言でも聞き間違いでもなかったのだ──

 眠れない。かといって、涙が出てこなかった。

 隣の部屋で嬉しそうに笑う母の声を、からからに乾いたミイラになった気で聞きながら、まんじりともせずに横たわっていた。

「ねえ……、もっとさわって」
「いや、でもとなりにさ」
「だいじょうぶだから」

 やがて水が撥ねるような音がふすまの向こうから聞こえてきた。荒くなりゆく息遣いも。

 何が始まったのか、わかった。テレビドラマとかの中で、大人たちが唇を吸い合うほかに、何かやることがあるらしいのを、なんとなくは知っていた。それにしてもこんなにピチャピチャと音が立つものだったのか。これでは声を密めている意味がない。

 しばらく物音を聞いていたが、ミイラは蘇生し、静かに寝床から抜け出した。

 知識では知っていることの実際を、目で確かめたいわけではなかった。純粋な好奇心とは呼べないものに導かれ、四つん這いでふすまの前まで進み、建て付けが悪いために暗闇に浮いた縦の光へと顔を近づけた。

「んっ……、あっ……、いい」

 焦点がはっきりとすると、淡い肉に濃い肉が乗っかって上下していた。一見何が何やらわからなかったが、男と女が重なっているところを、真後ろから見ているのだと諒解できた。理解を阻んでいたのは、皺む嚢をぶら下げた男の杭が、女の股の中心へと突き刺さり、粘液を絡ませながら出入りしている様が、ひどく異質なものに見えたからだった。挿り切ったところで母の呻きが聞こえ、引いていくと肉弁の捲れ出る縁から泡立つ雫が垂れている。ときおり、嚢の中身が上へ引かれては縮こまっていた。
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