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姦譎の華
第8章 8



 美しくあることは秘書の責務であり、自分にとっては、生きていく糧だ。美しくなければ、意味がない。

「……もういいですよね?」

 鼻をつまみたくなる臭気が漂ってきていた。屈みがちに背後から戻ってきた島尾も、その場に尻もちをついている稲田も、股がみに大きな濡れ染みを広げている。

 今すぐ外へ出て、清涼な空気を吸い込みたい。好き勝手にされたブラには違和感があるし、好き勝手にされたショーツの肌触りも不快だ。

 何よりも、早く家へ帰ってシャワーを浴びたかった。自分を自分たらしめている鐘美の体を、汚ならしい劣情を満たすための道具として使われてしまったのだ。

「何言ってんだ、お楽しみはこれからだぜ」

 いかにも悪党ぶりたげなセリフを口にする島尾へ、

「でもいまあなたたち……」

 射精したんだろう──それをどういう表現で伝えようか、言葉選びに迷っていると、

「安心しろ。天下の華村多英様がお相手なら全然いけるぜ? だいたいよ、まだヤラせてもらってないからな」

 なおもヘタクソな節回しは続き、乱れたシャツとスカートを整えていた手が止まった。口先の三文芝居ぶりはともかく、見せつけられる股間では、何ら演出のない、放出直後とは思えない赤裸の淫欲が、粘液まみれの前布を尖らせている。

「稲ちゃんだってさ、憧れの社長秘書様に御セックスさせていただかなきゃ、終われっこないだろ?」
「ひ、……あ、……は、はい」

 まだ床にへたりこんでいた稲田が、セックス、のくだりにビクンと股間を反応させると、糸で引かれているかのように小刻みに頷いた。

「……」

 特別応接室は景観にも配慮されており、据えつけられた大きな窓の前は公園で見晴らしが良い。周囲のビルとの間には距離があるから、双眼鏡でもない限り部屋の様子が知られることはない。

 しかし、窓一面を塗り潰した夜が、ガラスを鏡に変えていた。
 二人の脅迫者を前にした、気高い女が映し出されている。
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