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姦譎の華
第9章 9
「三岳様、ですか?」
「そうだ。なんで南関エクスプレスじゃないんだ、って顔だぞ?」
「いいえ、そのようなことは」
「何故だと思う?」

 ときどき、敏光が仕掛けてくる問答だった。秘書の能力を試そうというより、そうすることによって自らの判断の正否を第三者的に評価したいのだ。

 何にせよ、悪夢に浸っている場合ではなくなった。

「……。社長は、弱い者の味方でいらっしゃいます」

 ただそう答えると、

「やれやれ、もう光瑠は要らないな」
 自分の考えとも合っていたのだろう、敏光は嬉しそうに深く頷いた。「そう、三岳は内紛なんかやってる間にスマート化に完全に立ち遅れたからな。おかげさまで南関との差は開く一方だ。彼らには、かつての栄光を取り戻してもらわなければ困る。正義の味方が救けるのは常に弱い側だよ。そうしないと、戦争が終わってしまうしね」

 話しながら肚を決めていき、決心を表すかのように両膝を叩く。

「と、いうわけで、あのオヤジだ。三岳のご老公」
「横井顧問でしょうか?」
「そうそう。近いうちに会食でも設定してほしい」
「承知しました。早速手配いたします」
「『土産』も忘れないようにね。あのオヤジがまだ昔みたいに元気なら、の話だけど」
「お変わりはないと伺っております」
「そうか、情報収集は抜かりない、か。しかし……」

 そこで敏光は、スッと表情を緩めた。

「──華村君は、なんだか様子がおかしいね」

 秘書を見つめてきた慧眼の主人を前に、多英は即答ができなかった。

「いいえ、そんなことはありません」
「いいや、いつもより反応が一秒遅い……てのは冗談だけど、本当に具合が悪そうだ。風邪かい?」

 いくら敏光でも、この応接室で何が行われたかまでは察知していなかった。正面の愛紗実も、こちらは上っ面だろう、上職の体調を慮る顔を向けてきている。
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