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姦譎の華
第10章 10
「いえ、用は済んでいませんよ華村主任」

 タイピングが止まる。

「今晩のご予定は?」
「そんなことを訊いてどうするつもりですか?」
「飲みにお誘いしようかと──」
「お断りします」

 今度は食い気味に遮ってきた。
 もちろん、つっぱねられるのは承知の上だった。

 島尾はデスクに片手を置いてその場にしゃがんだ。少し声のボリュームを落とし、

「いいじゃないですか、せっかく昨日『仲良く』なったんですからね。いやあ、まさか華村主任があんなに──」
「やめてください。人を呼びますよ?」

 またも話が遮られたのは、しゃべりかける内容のためというよりも、もう一方の手を太ももの上へと置いたからだった。パンツの上からであるので肌身を味わうことはできないが、柔らかくも張りのある手触りは、昨晩の淫楽を充分に思い出させてくれる。

「人を呼んでセクハラで懲戒にしますか? それとも、ナントカ罪で訴えようとでもいうんですかね。ま、そうなったら俺はオシマイですが、どうせ人生終わるんなら、あの事、洗いざらいみんなに話してしまいますけど、それでもいいんですかねぇ?」

 むろん、キッと睨まれた。
 睨ませるために、なるだけ癇に障るよう言ったのだ。

 凍てつく視線を浴び、しゃがんで狭くなった股間で肉茎がジッパーを押し破らんほど活きり勃つ。勢いに乗じ、手を付け根の方へと移動させていくと、息を呑んだ多英はキーボードを離して手首を抑えた。

「……こんなことして恥ずかしくないの?」
「ええ、恥ずかしかったらしませんよ。ところでこの手は何なんです?」
「もう昨日、言った通りにしたじゃない」
「そうですね、たっぶりとヤラせてもらいました。ですが今また社長秘書様のソソる御カラダを見ていたら、たまらなくなってきたんですよ」
「頭がおかしいだけじゃなくて、とても悪いのね。誰か来たらどうするつもり?」

 そうは言っても、手は抑えられているだけだった。振り払うことも叩くことも、死角で抓ろうとさえも、されない。

 この様子ならいけそうだった。

「……そうだよな。だからいまから倉庫に来い」
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