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姦譎の華
第11章 11
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 夜間にエラー発報メールが届いていたわけでもないのに、稲田はシステム端末席へと向かった。コンソールログインし、稼働ログを時系列順に確認していく──フリをして、モニターの陰から社長室を窺った。フロアの隅に設置されているこの席からは、人知れず御座所を見通すことができる。

 毎朝こうやって、聖女の姿を確認するのが日課だった。

 社長にどこか訪問先がある場合は不在の日もあるが、出社一番に社内システムのスケジュール表を確かめると、今朝は在社の予定だった。当然、付秘書も出社しているということになる。

 もっとも、セパレータの向こうから出てこない限り、御姿を拝見することはできないのだが、

(ああ……)

 本日は始業から間を置かずして、社長ともどもお出ましになられた。

 昨日とは打って変わってのパンツスーツ姿。

 スカートではないからといって、ガッカリすることはない。ただ、万人向けに作られた既製品では、伸びやかな下肢にああもフィットするものはなかろうから、おそらくオーダーメイドではないかと憶測する。惜しげもなく披露される脚線美にはテーラーに対する憤りすら催され、その英姿が他の男たちの目にも晒されているかと思うと、いつも物狂おしくてしかたがない。

(でも……)

 今となっては、スカートにもパンツにも覆われていない御身を、妄想の筆でモニタいっぱいに描き出すことができた。

 遠目ではスラリと見せていた腰部は、間近に臨んでみると驚嘆すべき質量を有していた。いや、もはや尺度がどうのとかいう次元ではない。もしかしたらあの方は、身肌は隠すものだという社会通念を超え、無辜の者を幻惑し、卑しい犯科へと走らせないために着衣くださっていたのではないだろうか。

 社長と秘書の二人が、特別応接室へと消えていく。

 にもかかわらず俺は、あの部屋の中で、己の薄汚い欲の赴くままに、羽衣を劫奪してしまったのだ──
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