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姦譎の華
第11章 11
「ふが……」

 回顧するや、楽園にたゆとうていた蘭麝までもが蘇った。もはや死ぬまで忘れられはしない、鼻奥に烙きつけられた刻印だった。

 中途入社してきてフロア全員の前で挨拶をされたその日から、聖女の中枢を覆う薄布の香りを追究する日々が始まった。

 コレクションに染みた臭いたちを、頭の中で様々に調香する。雑誌が発売されてからは、二冊購入したうちの一冊の特集表紙を開き、なまめかしく肢体を拗る御姿を凝視しては、一厘の可能性も見逃すまいと嗅覚を研ぎ澄ました。

 愚行以外の何ものでもなかった。決して正解は知りえないのだから。

 だからこそ、真実の香りに気腔を満たされた瞬間、身肉が飛び散るほどの歓喜が全身を駆け巡った。身代わりとして肉槌が暴発を起こすことで、辛うじて滅失を免れたと言っていい。秘布へ顔面を押し付けたまま達した絶頂は、調香しながらいそしむ自慰はもとより、わざわざ関西まで足を運んだ特殊料亭で、初めての挿入でもたらされた記念すべき射精すら著しく凌駕していた。

「──稲田」

 夢は果たされた。そこで満足しなければならなかった。
 いいや、満足だなんておこがましい。大罪を犯した自分は、いかなる誅罰も辞さず審判を待つべきだった。

「おい、稲田」
「あ、はいっ」

 モニタの向こうに立つ人物が部長だとわかるまで、不自然な時間を要してしまった。
 そして焦った。端末卓の下ではズボンの前が思いっきり尖り、ブリーフの中は気色悪いほどヌメっていた。

「何をボーッとしてる」
「す、すみません」
「しっかりしてくれ。パッケージの切り替え本番、再来週だってわかってるのか?」
「ええ、わ、わかってます」
「じゃ、販管の新旧突合は終わったんだな?」
「いいえ、それは……、まだです」
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