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姦譎の華
第11章 11
(うっく……)

 下着を顔に被っただけ、握り拳はまだ腿の上だ。なのに肉棒は一気に傘を開き、身悶えするようにユラユラと揺れた。

 扱こう。ヌイておこう。
 ここで扱いておかなければ、仕事が手につかないどころか、生きている心地すらしない。

 こわごわと、先端に溜まった粘液を亀頭になじませる。

「う、うはっ……」

 指を一回ししただけで精嚢が浮いた。一ミリでも摩擦があれば即刻爆発してしまうほど、まさに臨界寸前の状態だった。

 もうどうにでもなれ──悪い結果になっても文句は言わないという、一見潔げな自棄は、もしかしたら何もしなくても良い結果に転ぶこともあるかもしれないという、甘っちろくも薄汚い期待の表れだったのかもしれない。

「うう……、す、すみません……、多英さま……したい、……したい、です、もう一度……、したい、したい……したいしたい、……うう」

 顔に密するクロッチへ向けて本音を呟いてみると、ピストンなしで激流が尿管を駆けあがり始めた。トイレットペーパーを搦め取る余裕はない。あとで床を掃除すればいい。中途半端に遮らず、思いっきり発射したほうが、得られる喜悦ははるかに大きいはずだ。もうどうにでもなれ──

(……!!)

 トイレに誰かが入ってくる足音がした。

 稲田は必死に奥歯を噛み締め、越流を堪えた。
 やむを得なかった。喘ぐことなく射精する自信がなかった。

 早く出て行け、と息を殺していると、闖入者は放尿が小便器を叩く中、痰を喉に鳴らし、底へ向けてペッと吐き出した。こんな下品なことをする人物は、社内に一人しかいない。

「へ、へへっ……」

 いかにもな薄ら笑いは、案の定、島尾の声だった。個室に人がいることに気づいていないのか、イヤラしいことを考えていることが丸わかりのニヤけぶりが目に浮かぶ。
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