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姦譎の華
第2章 2
 たしかに「ん?」と思ってしまういでたちだったが、

「別にいいじゃない、どんな服着たって」
「でも普通、彼氏があんなカッコしてたら全力で止めますよね?」
「あの奥さんがそれでいいって思ってるんだから、ほうっておきなさい」

 返した言葉の通り、何を着ようがその人の自由だ。外野がとやかく言う話ではない。

「結構若い、キレイな奥さんなのになぁ……。でも、あれはだいぶイジってますよね、きっと」
「ほら、もういいから」

 どんな場所であっても、誰が聞いているかわからない。

 見ず知らずの外国人旅行者、それも今やこの国の経済に欠かせない貢献をしてくれている人々をつかまえて、下世話に値踏みしているところを聞かれては、話す者の品位が疑われてしまう。

 秘書という職業にとっては、命取りだ。

 いつの頃からか、『美人すぎる』という修飾辞が特定の職に就く人を讃える際の常套句になっている。

 ビジネスマン向けの或る雑誌が組んだ秘書特集のタイトルにも、『各社を彩る美人すぎる秘書たち』という副題が添えられていた。真の姿が知られているとは言いがたい職務の具体内容を、様々な業種の会社秘書を紹介することで解説しよう、というものだった。

 表向きは。

 真の企図が、主な読者層であるサラリーマン男性たちの目の保養であることは明らかだった。二十人もの秘書が取り上げられる中、タブレットを小脇に抱えて電話をかけている立ち姿を──もちろん「やらせ」だ──特集の表紙ページにタイトルとともに掲載されれば、まさしくその代名詞として映ったことだろう。

 だいたい、『美人すぎる秘書』という尊称が、全くの意味不明だった。

 どこかの誰かが考え出したこの言葉には、職務に美醜は無関係なのに、という逆説が省略されている。反語的に、賞賛をしようとしてくれているのだろう。

 しかし秘書は、美しくて当然なのだ。
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