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姦譎の華
第2章 2
 任に就く前からイメージしていたし、同じく任ぜられている人と面識を持つようになって確信した。秘書を務める人は共通して、実に優等な容姿を有している。人間の見た目を測る単位があるならば、皆、平均以上どころかAクラスに属する人々ばかり。特に男性よりも女性の方が圧倒的にその傾向が顕著である。

 どなたかのおっしゃるとおり、職務における事務処理能力には全く関係のない資質だ。

 しかしながら秘書の仕事は、事務作業よりも人と接することのほうが大半を占める。しかも単なる一社員としてではなく、自分の発する言葉は主の言葉となり、時には、自分に対する評価は会社に対する評価にもなりうる。情報を集積しておくだけであれば手帳で十分、生きた人間にこれをやらせる理由は、秘書の存在そのものが、営業となり、広報ともなるからだった。

 そうなると、第一に問われるのは能力よりも印象だ。同じ能力を有していても、その外面によって結果の出来栄えはまるで異なる。だからこそ、どの会社も見目の良い秘書を揃えるのである。

 美しくあることは秘書にとって必携の特質であり、責務だ──

 雑誌に掲載されて以降、『美人すぎる秘書』として特Sクラスに認定された多英は、世間、とりわけビジネスの場において広く知られる存在となった。今だって、愛紗実と横並びで立っているあいだにも、ビジネスマンだろうが観光客だろうが、通り過ぎる誰もが目を向けてくるし、一流ホテルのスタッフとして厳しく教育されているはずのドアマンやポーターですら、ときおりこちらを窺ってきている。

「そういえば酒井さんの話、聞きました?」

 話を打ち切られた愛紗実は、前を向いたまま右から左へと重心を移しつつ、別件を話しかけてきた。

「結局、示談が成立したみたいですよ」
「……そう」
「社長や室長から何か聞いていませんか?」
「いいえ、ぜんぜん聞いてないわ」
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