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姦譎の華
第12章 12
12


 非常灯を掲げたドアを抜けると、内階段の踊り場に面してもう一つ扉がある。引き戸横のスイッチで電燈が灯るが、出力は絞られていて薄暗かった。部屋を二つに仕切るようにスチール棚が並べられている。手前には備品ストック、奥側には非常用の備蓄の水・食糧といったダンボールが所狭しと積み上げられていた。

 社内にこんな倉庫があるなんて、知らない社員のほうが多いかもしれない。

 島尾はふと、あの女は何も言わなかったが、倉庫の場所がどこか知っているのだろうかと心配になった。だがすぐに廊下側の鉄扉が開く音がして、排尿後も上を向きっぱなしだった肉茎が踊った。

(くくっ……)

 踵音は扉の前で止まり、軽くノックされる。無言でいると、もう一度叩かれた。
 それでも何も応えずにいたら、ノブが捻られ、ゆっくりと開き始める。

 内外の明暗差がありすぎて影でしかわからないが、コートを着て、バッグを肩にかけていた。半信半疑で覗き込み、徐々に射し込む仄灯りの中に底気味悪く佇む男を見つけ、思わず肩を弾ませている。

「ずいぶんと早かったな。そんなにモミモミされたかったのか?」
「……。来いって言われたから来ただけよ」
「倉庫でモミモミしてやるから来いって言われたから来たんだろ? ってことはだ、モミモミされたくて来た、ってことになるよな」

 我ながら強引に思う屁理屈に、

「……本当、あなたっていちいち言うことが最低なのね」

 シルエットが嘆息とともに呆れ声を放ったが、負け惜しみにしか聞こえなかった。

「ま、とにかく閉めようぜ。誰かに見られて困るのは、あんたのほうだろうしな」

 早く二人きりになりたくて急かすと、忌々しげな吐息がもう一度つかれ、中へと入ってくる。特別応接室よりもずっと狭い部屋。日常の執務中では決して近づき得ない距離。部屋の空気が洗われていくかのようだ。
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