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姦譎の華
第12章 12
「帰るってのはほんとなんだな」
「あなたには関係ないわ」
「そうでもないぜ。俺は忙しいんだ。美人秘書様がいくらモミモミしてほしくったって──」
「体調が悪いから社長に休暇をいただいたの」

 理由を聞いて先端から粘液が噴き出すのを感じながら、島尾はただでさえ近いのに更に距離を詰めていった。昨日と同じく肘を持った腕組みをしていた女は、その姿勢を保ったまま、じりじりと後ろへと下がっていく。

 しかし狭い部屋では、下がるにも限界があった。間近まで近づいたことで、きっての秀麗ぶりは薄暗い中でもつぶさに拝むことができた。目を逸らし、どれともない棚の備品を見つめている。朗らかにはほど遠い表情をしていても、やはり喫煙所のギャルなんぞとは二つ三つは桁が違った。こちらを向かせてやりたい。

「どっか調子が悪いのか?」
「あんなことされたら当然でしょ?」
「へっ、実はあんただって愉しんでたんじゃないのか? ったく、昨日はスケベな秘書様のアソコが気持ち良すぎて中出ししまくっちまったけどよお、あとで面倒なことにならないように、ちゃんと後始末はしてくれたんだろうな?」

 突如踏み込んできて、横っ面を叩かれる。脳が揺れて崩れ落ちてしまうほどの腕力ではなかったし、生まれて初めて女に殴られたわけだが、不思議と怒りは湧いてはこなかった。

 そもそも、自分にビンタをしようと発想する女なんていなかった。いつぞやキレたキャバ嬢も、憤怒に駆られた掌を振り上げたが、この脂ぎった顔に一瞬でも手を触れたくはなく、最後まで揮おうとはしなかった。この女だって、触らなくていいなら、触りたくはなかったろう。

「……あんまり物音立てないほうがいいぜ? 特応とは違って防音じゃないんだからな」

 島尾は振り抜かれていた手首をつかみ、肩の高さまで引き上げた。身を捩ろうとしても、外側へ引いて上体を開かせる。
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