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姦譎の華
第13章 13
 乳首を弄う稲田を、あるいは、スンスンとうなじを嗅いでいる島尾を、退けようとしたのではなかった。かりそめ心の片隅に生じた亀裂から、みるみると染み出してきた甘楽に、厳しく自らを戒めたのだった。

 だから稲田に足元ににじり寄られると、島尾に抑えられた腕を振り払い、膝で蹴飛ばすよりも先に、悲鳴をこらえることへ全神経を集中させなければならなかった。これがなければ、けたたましくドアが叩かれた驚愕のあまり、外にまで聞こえる大声を上げてしまっていたかもしれない。

 いま、脅迫者たちは目の前にいる。来訪者は部外者であることは確実だった。

「ちょっとっ、島尾さんっ!」

 ときどき秘書係を訪れる、総務の若手の子の声だ。一度確認したにもかかわらず、またノブを捻っている。

「……どうしたよ?」

 思わず後ろを振り返る。そのまま黙ってやり過ごすものだとばかり思っていたのに、島尾は腕を固めたまま、真っ正直に返事をしたのだ。

「コピー用紙持ってくのにいつまでかかってるんですか!」
「いや、どこにあんのかわかんなくてな」
「どこって、誰だって目につくとこに積んであるでしょ。とにかく開けてください!」

 邪魔をされて不愉快なはずなのに、すぐ後ろにある分厚い唇はイヤラしく歪んでいた。

「静かにしてろよ?」

 そう囁きかけると、ドアを向かせて後ろからグイグイと押してくる。脚を突っ張ろうにも腹の圧は予想外に強く、ヒールを堅床に鳴らしてしまったら自分の存在を外に教えてしまいかねない。

「んっく……!」

 それでも重心を落とし抗っていると、真後ろからバストをつかまれた。ジャケットの上からネチッこく捏ねられて、脚の力を削がれていく。

(ううっ……)

 彼とのあいだにはドア一枚しかない。危険すぎる。手遅れになる前に、やめさせなければいけない。

「あふっ……!」
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